メキシコ回想記16.ガナファト その2 | 小説と未来

メキシコ回想記16.ガナファト その2

静かな夜明け。
メキシコの朝は、ゆっくり始まる。外がまだ暗い中、新聞屋が声を上げる。
「オーーーーー、オーーーーー」
新聞屋だったと思う。「オー、オー」と言っていたような覚えがある。
暗がりの中、石畳の街を窓から覗く。外灯はまだ消えていない。新聞屋が新聞を持って歩き回っている。
僕のガナファトでの朝、それが僕の思い出だ。

朝はヒロ君と、パン屋へパンを買いに行く。昨日も同じ朝で、翌日も同じ朝。この日本人宿ではお決まりの店があり、そこに行くことが習慣になっている。
パンを買って、日本人宿のリビングでコーヒーを飲みながら食事を済ます。

朝9時に日本人学校へ行く。
教師は丸っこい体系のイメルダさんだ。昨日は全くもってバラバラだった。今日をテキストを基に進める。
単語を組み合わせて、スペイン語にしてゆく。2時間の授業。とても疲れた。

12時に日本人宿に戻ると、ヒロ君が出発の準備を始めている。まずはエクアドルに行くらしい。情報をインターネットで調べて、治安を気にしていた。コロンビアはもっとやばいらしいが。
そして、キョウコさんと共に、バス停までお見送り。
この旅の中で、長い時間を初めて過ごした旅行者だった。彼は自由人だ。だが、この旅を終えると日本で就職する。彼はもう長い旅をする事なく、
普通の日本での生活を送るのだろう。(そうとも限らないかも?)

それからは単独行動をした。
ガナファトの街を囲う山々の方へと上ってゆく。最初に上った辺りは、壁に落書きがしてあったり、家々も簡素で治安のよくないあたりのようだ。
狭いガナファトにも、金持ちの住む場所と普通の人が住む場所、貧乏人が住む場所に別れている。メキシコはどこへ行っても格差社会だ。

日本人宿に戻ると、今度は2人の背の小さい女子大学生がいた。
ミキとサヤはオレゴン州に留学していて、冬季の休日で、メキシコへと遊びに来たそうだ。そして僕はキョウコさんから、この女子2人のボディーガードの役を任命させられる。
僕がここに来た日もヒロ君に任されたが、今度は僕が任された。
「治安が悪い場所もあるから。遅くなると危ないから」
そんな理由だ。

彼女たちは観光をしながら、ピピラという街が一望できる場所に行きたいと言っていた。
実はさっきの単独行動で行っていたが、ボディーガードとして付き合わないわけにはいかない。
そんなわけで、今度は彼女らとガナファト観光。
彼女たちはデジカメを持っていて、常にカメラを構えて、あちらこちらをカメラに納める。2004年当時、まだフィルムカメラだった僕にはできない技だ。
いやそれ以上に彼女たちは写真を撮りまくる。カフェでも頼んだコーヒーやらケーキやらを取り、可愛らしい子供を見つけては、一枚写真撮っていいと言って、カメラを構える。
僕の淡々とした一人行動と違って、わずかな場所で多くの時間を費やす。石畳の街並み、立ち並ぶ店、小道、様々な場所をゆっくりと歩いた。
それからピピラへはケーブルカーで上った。単独一人行動では歩いて上ったが、このペースではとても時間がかかる。
上に上って世界遺産の絶景を堪能する。あちらこちらを撮りまくる彼女らに付き合っていたら、日が暮れて、ガナファトの夜景が一望できた。さすがにこれはとても綺麗な絶景だった。僕のカメラもフラッシュした。
そこではペペさん夫妻とフアン一家と話をした。あちこちの子供に写真を撮る彼女らはあちらこちらの人と仲良くなる。
スペイン語は全く話せないが、英語は堪能だ。どんな話をしていたか、聞き取れなかったのか、覚えていないのか、どちらにしても深い意味のない話だった。僕も習いたてのスペイン語で多少は話をした気がする。
それから、夜が更けて、マリアッチという音楽のパレードに参加する。つばの大きいメキシカンハットを被って、ギターやらマラカスやら楽器を持ったカラフルなスーツを着た男性数人が、歌いながら1kmほどの石畳の狭い道を歩いていく。それもまた楽しい時間だった。
そんなわけで、その一日は楽しい一日になった。夜はミキがサルサを踊りたいと言うので、踊れるお店に行ってみたが閉まっていたので、近くの生演奏しているレストランバーで、カクテルを飲みながら過ごした。雰囲気の良い夜だった。
これが、旅行だ。僕の旅の中で、とても楽しい一日となった。

彼女たちは一週間ほどの旅、楽しみたい気持ちが多かったのだろう。旅慣れてもいない。新鮮さが違う。確かにガナファトは綺麗な街だ。もっと感動すべき場所だろう。
僕はヨーロッパを旅し、二度目の旅、その旅もすでに1ヶ月近くが経とうとしている。ここへ来るまでは時間を掛け過ぎたのかもしれない。いや、すでに新鮮さを失っていたのだろう。ヨーロッパに初めて行った時の感動を獲たい。そんな気持ちもあったろうけど忘れていた。2度目の長期の旅、やはり感動は薄まる。20歳前後で海外を旅をするのとは違いがあるのだろう。
でも、彼女たちと一緒にいる事で、その感覚を少し思い出した気がする。
旅は楽しいものだ。僕はまた、そう思えた。