EmT.41 ヘレス・デ・ラ・フロンテラ~セビーリャ | 小説と未来

EmT.41 ヘレス・デ・ラ・フロンテラ~セビーリャ

友人Hとの再会の約束をしたセビーリャまでやってきた。

11月25日、友人Hとの一週間ぶりの再会を果たすために、僕はセビーリャにあるホテルにやってきていた。ホテルに辿り着いたのは夕方だったが、友人Hはまだそこにはいなかった。僕は軽い夕寝でもしながら友人Hを待つこととした。


 前日はカディスを出て、ヘレス・デ・ラ・フロンテラを訪れていた。セビーリャから1時間程度の南に行ったところにある町で、カディスとセビーリャの間にある。それ程有名な町であるわけではないのだが、シェリー酒発祥の地として旅行客が立ち寄る事の多い町だ。いくつかのシェリー酒工場では工場見学ができるので、ワンクッションおいて訪れるツアー客も多い。

 僕は当然一人で訪れたわけで、シェリー酒の事なんてなんだかわからないので、工場見学も考えなかった。それでもティオ・ペペという名前だけは覚えた。


 ヘレス・デ・ラ・フロンテラでは、綺麗なホテルに泊まった。特に高いホテルというわけではなく、むしろ2000円程度でお手ごろな値段のホテルだったのだが、白壁で、綺麗に清掃してあるホテルだった。生活観のあるオステルか、ユースホステルばかりだったので、久々に清潔な場所に泊まれた気がする。

 特にやる事はなかったので、昼間の15時くらいから、レストランのオープンカフェでシェリー酒を飲んだ。広い石畳の広場には20席くらいのテーブルと椅子があったが、僕しか座っていなかった。

 独特のブランデー臭がするシェリー酒を一人飲んでいると、店の人とは関係ない小男が近づいてきた、小男は突然歌いだす。「あーーー、おいや」みたいな掛け声。前にロンダのバルのテレビで見たフラメンコで、拍子を取っていたおじちゃんと同じだ。

 小男は1m以内のめちゃめちゃ近いところで全力で歌いだす。もはや逃げ場もない。無視もできずに見ているしかない。そして5分後、手拍子と足踏みは終了した。

 一礼して、僕に何かを求める。

『わかったよ。やればいいだろう!』と心の中で苛立ちながら、「グラッシアス(ありがとう)」と言って、100ペセタを小男に渡した。

 小男も「グラーシアス」と言って、去っていった。


 そんな客もいない静かなヘレス・デ・ラ・フロンテラで半日を送った。

 翌日、セビーリャに向かう前もしばらくヘレス・デ・ラ・フロンテラにいた。カマラ・オスクーロと呼ばれる古い望遠鏡みたいなものを見た。何の事だかよくわからないかもしれないが、僕もよくわかっていなかった。とにかく古い建物の中に遠くを映す鏡みたいなものがあって、遠くの景色がそこに映るのだ。

 とりあえずそういうものだ。


 適当にヘレス・デ・ラ・フロンテラで時間を潰し、セビーリャに向かった。

 この辺りでは、パエーリャを食べた覚えがある。前日のカディスの昼食だったかもしれない。ドロッとした濃いパエーリャだったが、やっとパエーリャを食べられたな、と思ったことを覚えている。


 そして、セビーリャへやってきた。どこへ行ってもアンダルシアの石畳の街並みだ。セビーリャもまた似たような都市だ。コルドバとさして変わらない。

 とりあえず友人Hとの再会、それだけを考えていた。



 ホテル「ビエンベニード」で友人Hを待つ。半分寝ていた。「来ないかもしれないが、まあそれでもいいか」なんて事も思っていた。

 また生活観のあるホテルで、僕が寝ているのは1階の部屋だった。誰かがレセプションまで来ればわかりそうな部屋だ。

 うとうとしている夢見心地な中で、人の声が聞こえていた。フロントから聞こえてくる。

「アミーゴ・・・なんとか、かんとか」と言っている。

 アミーゴは挨拶の言葉ではない。友達の意味だ。僕はふとあいつが来たなと思った。僕は身を起こした。そして部屋を出て、フロントを覗く。やはり友人Hがいた。超にこやかな笑顔で、下手くそなスペイン語を伝えながら僕の事を尋ねている。

「おーい」

 呼びかけると、超笑顔でこっちを見ている。

「おおおおお」

 超嬉しそうな顔をしている。僕は彼にさぞかしいい出来事でもあったのだろうと思った。僕が祖父の事やあれやこれやと悩んでいた中、彼は楽しい旅行をしてきたのだろうと思った。

 でも事実はそうでもなかったと言う。いろいろな不安があって、スペインに戻ってきて、僕にあって安心したという。そんな事を思われたら少し嬉しいやら何やらと思う。実際に僕自身も友人Hに会えて、安心した気がした。一人の旅はどことなく少しさびしい気がしていた。


 僕らは久々に二人で同じ部屋に寝ることとなった。何となく安心して眠れる気がした。いつか一人なった時はその時の方が安心して眠れたものだが、ずっと一人でいて、久々に二人だとその方が安心して眠れる。人間の心とは、わがままで複雑なものだ。


セビーリャでのときは翌日につづく。