EmT.40 カディス | 小説と未来

EmT.40 カディス

1999年11月23日はカディスで過ごした。


 駅前のインフォメーションでホテルを探していると、見知らぬ老人が声を掛けてきた。

「ホテルを探してるのか?」と聞くので、「そうだ」と答えると、「付いてきなさい」と言う。

 怪しいと思うのが普通だが、なんだかその時はどうでもいい気分になっていたので、その老人について行った。

 駅からいくつかに別れる細い路地の一本を歩いていき、数分のところの3階建てのマンションに老人は入っていった。僕はそのままついて行った。

 中は中央が吹き抜けになっていて、周りに何部屋もの部屋があった。簡単な作りのコンクリート造りの建物だった。

 3階まで上ってゆき、老人は誰かを探していた。洗濯室におばさんがいて、おばさんはたくさんの洗濯物を洗っていた。そして老人は、僕が泊まりたいことを告げ、部屋は空いているか、と聞いていた。

 老人は鍵を預かり、僕を3階の端の部屋へと案内した。ベッドが二つある生活観のある部屋だった。老人は「いい部屋だろう?」と言った。

 まあ悪くはないので、「シー」と答えた。老人はすぐには去っていかず、手をもじもじさせていた。

 そういうことか。と思い、僕は老人に100ペセタを渡した。


 カディスは地中海に面する海辺の街だ。カディスに着くまではずっとビーチが広がっていて、夏になるとたくさんの海水浴客がここを訪れるのだろうと思った。11月末のビーチに人はおらず、ただだだっ広いビーチが永遠と続いていた。

 僕はビーチとは異なる街の堤防のある海辺でぼけっと過ごしていた。海には要塞が浮かんでいて、カディスの海岸から1本の長い要塞へ続くレンガで出来た橋が伸びている。そこは封鎖されていて渡ることは出来ないのだが、なんともスペインらしい光景に思えた。いつの時代か、きっとこの海辺で海上戦が行われいたのだろうと、そんな事を思い浮かべていた。

 ただぼけっと時を送っていると、日が暮れ始めた。冬も近づき、世のふけるのも早まってきたように思う。やがて要塞は明かりを灯し、輝きだした。綺麗な光景だった。海辺で要塞は、今は灯台の役割を果たしているようだった。

 日が暮れて、街を歩き、僕は人のいないバルに立ち寄った。リーガエスパニョーラのテレビ観戦ができる大きなテレビのあるスポーツバーだった。客は誰もいなかった。試合も有名じゃないチーム同士の対戦だった。霧の中の試合で、周りが真っ白でなんだかわからない試合だったが、2対2くらいの接線を演じていた。僕はその試合を見ながら、瓶ビールを飲み、しばらくそこにいた。

 試合が終る頃、そのバルを出た。どちらが買ったかは忘れてしまった。


 そしてホテルに帰って、そのまま生活観のある静かな部屋で眠った。

 街には観光客らしい人もいなかったし、とりわけ外国人の僕を気にするスペイン人もいなかった。僕はその街に住み着いた外国人の居候のようにカディスで一日を過ごした。

 何もない一日だったけど、やけに落ち着いた一日だった。やる事のない日曜日のような一日が過ぎていった。僕は自然とスペインの街の中に溶け込んでいた。


つづく