EmT.39 コルドバ
コルドバのユースホステルでは二人の日本人に出会った。1999年11月22日の事だった。
前日にロンダを出た時はまだずっと、自分の世界の中にいた。コルドバに着いたのは夕方だったが、それまでの経緯は覚えていない。
ホテルと対して値段の変わらないユースホステルに泊まろうと思ったのは、誰かに会いたかったせいかもしれない。
僕はコルドバの駅から街の中心にあるユースホステルを目指して歩いていた。途中道を聞いたが、なんだか道を間違って、古い土壁の街並みが続く居住地に入り込んでしまった。
確か、「デレーチャ」と言っていたな?いや、「デレーチョ」だったな?久々に聞き間違えた。「デレーチャ」は右で、「デレーチョ」はまっすぐだ。旅の集中力は途切れていた。僕は思い直して、右に曲がった所の方へ戻り、左へ曲がった。すると町は石畳の狭い路地が続く古風な街並みへと変わった。
その道を歩いてゆくと、やがてユースホステルに辿り着いた。
ユースのレセプションで受付を済ます。受付もすっかり慣れて、英語で対応する。部屋の鍵を渡されなかったので、「鍵はあるのか?」と聞くと、「ドミトリー部屋には別の人がいるから彼が持っている」と言う。
部屋に行くと、部屋は2段ベッドが2つある部屋だった。その時は、どうやら日本人らしい男が寝ているな、という感じであったが、後に訪れた時は起きていた。
もしゃもしゃ喋る感じの男で、髭ももしゃもしゃ生やしていた。
彼の話では、彼は北欧から南アフリカまでを目指しているそうだ。北欧ではオーロラが綺麗だったと言う。すでに1ヶ月以上は旅していると言っていた。しかし僕と友人Hのダラダラ旅行に比べたらだいぶハイペースだ。
そんなもしゃもしゃ君だが、観光等はあまり興味がないようで、力を蓄えてかなんなのか、彼はほとんど寝ていたという記憶しかない。
翌日、僕は一人でコルドバ観光をした。
コルドバのシンボルはメスキータというイスラム様式の寺院だ。中はたくさんの太い柱が天井を支えていて、それ以外はただ広い空間が広がっている。独特の褐色の大理石で出来ていた建物だった。
とりあえずメスキータは観ておいて、後は川沿いからコルドバの街並みを写真に収めた。時間があったので、かなり構図を決めて一枚の写真を撮った。天気もよかったのでなかなかいい仕上がりとなった。
後は街をふらふらしていた。石畳の路地が続く綺麗な街だったが、工事のシーズンなのか、やたらと工事ばっかりしていて、ちょっと雰囲気が残念なところもあった。
ロンダにいた時より、気候も回復したのか、暖かく、僕の心もそんなおかげで少し和らいだ。
『今は旅をするしかない。この旅を完結させよう』
そんな事を思っていた。
昼過ぎにユースホステルに戻ると、レセプションで一人の男が受付と話が通じずに戸惑っていた。どうやら日本人らしい。僕はしばらく見ていたが、自分の部屋の鍵が欲しいので、早く話を終らせるために通訳に入った。
しかし人の良さそうな若い彼はまるで英語が聞き取れていない。イギリスの時の自分を思えばあまりあれやこれやとは言えないが、これでよく一人でヨーロッパまで来たな、と思う。逆に感心する。
朝食のいる、いらない、とかシーツの場所とか、食堂の場所とか、受付の説明を通訳して、人の良さそうな彼はやっと受付を終える。
「ところで鍵は?」と僕は聞く。
「誰かが持っている!ってさっき言ったでしょ!」
その言葉は聞き逃してようだが、通じない会話にイライラしていたレセプションのおばちゃんのとばっちりを受けることとなった気がする。
部屋に戻ると、もしゃもしゃの男がいた。僕らは3人で旅の話をした。人の良さそうな彼はマドリードに着いて、そこから来たばかりらしい。2週間だか3週間の短いスペイン旅行だと言っていた。だから僕らのような長い旅をする人を尊敬するかのような態度を見せた。
とりあえず僕ら3人は同じ部屋となったので、その日は一緒に飯を食べに行くこととした。レストランの食事だった。もしゃもしゃ君はあまり金を使いたくないようであったが、だいたいは2週間旅行のビギナー君が料理を頼んで、その分は彼が持ってくれた。
なんだかいろいろな豚肉だかハムだかの料理を食べた気がする。特別うまいというわけではなかったが、この旅の中ではかなり「スペイン料理!」という感じのしっかりした料理だった。
何を話したかはあまり覚えていないが、多分どこへ行って、どこがどうだったという話をビギナー君にしていたのだろう。僕ともしゃもしゃ君が互いにしてきた旅を語り、ビギナー君が来ているという構図だった。
そんなこんなで僕は内にあった暗い気持ちを忘れることができた。
二人に祖父の話はしなかったし、そんな重い話を旅行中の二人にしても仕方がない事はわかっていた。
『旅を続けよう』
自分のしてきた旅を誰かに話したせいか、きっと自分がしてきた2ヶ月近くの旅がいかに深く大きなものになっていたか、そしてこの先の残された旅がいかに重要か、自分自身が気づいたせいかもしれない。
僕はそんな事に気づき、気持ちを切り替えていた。
つづく