『何気ない毎にちを貴方に伝う』1ノ13 | 小説と未来

『何気ない毎にちを貴方に伝う』1ノ13


晴れ渡る秋の空は心地よい。


すかっとした一面の青空なのに、僕の気持ちはすっきりしない。



求めたい感情は僕の体を起こし、電車に乗らせて、僕を町の中心にあるいつもの駅まで連れてきた。

今日はいつもとは違う北口に降り立った。


北口も南口と同じようにロータリーがあり、バス停がある。

南側ほど発展しておらず、辺りには少し古い2,3階建てのビルが立ち並んでいる。

その西側には新しいドラッグストアがあり、そのさらに西側に進んでいくと小さな公園にぶち当たる。この辺りは人通りこそ少ないが、新しい開拓地の一角だ。



僕は公園まで来て、バスケットの遊び場がある側のベンチに腰を下ろした。

バスケットコートの地面はアスファルトで出来ていて、その周りを低いブロック塀が覆っている。座っても中で遊ぶ人たちの姿が見えるくらいの低い塀だ。僕はその外側のベンチに腰を下ろす。


高校生くらいの男の子たちがその中で3オン3を結構真剣にやっている。

僕は少し頭が痛い。風邪を引いたわけじゃない。これはいつもの反応だ。いつも僕は楽しんでいる若者を見ると頭が痛くなる。

いつだって僕は机の上に座っていた。わぁーわぁー騒いでいた記憶は僕の学生時代にはない。

思い出したくない思い出が頭を痛めつける。


忘れよう。その記憶は僕に何の利益ももたらさないのだから。

繰り返される毎日を終りにしよう。それが僕の今するべきことだ。



目を閉じる。

秋風が優しく、僕の耳元を掠めてゆく。でも少年の声が響く。少し遠くに恋人どおしの笑い声が響く。頭は痛むばかりだ。

忘れよう。

けど思い返せば、僕はずっと何もない毎日を繰り返してきた。それは10年前より前も同じだ。

僕はどうしていいかわからなかった。

中学生時代も僕は一人きり、高校時代も僕は一人、机に座っていた。

あの日、あの旅に出た日、僕は少しだけ何かを変えようとしていた。そしてあの日僕は僕を変えられると感じていた。あの男に会うまでは、これまでの自分の生活を改めようと決心していた。


自分の感情を思い出す。

僕は少しずつ何かを思い出そうとしている。だってあの日、僕は未来に希望を抱いていた。行動すればきっと出来ることもある、と信じていた。そして、欲しいと思うものに手を伸ばそう、としていた。

だけどあの日が終わり、次の日になると僕の感情はすっかり変わっていた。大きな穴が空いていて、その穴に全ての感情が吸い込まれていってしまうように、僕はどうでもいい気分になってしまっていた。

何もかもが、くだらなく、空しい出来事に感じられるようになっていた。


今もまだ空しい。

でも僕はこの穴を埋めて、欲しい物を求めたいと感じている。

それがせめてもの始まりだ。今僕はそこに来ている。



どれだけ時間が過ぎたろう。

いろいろと考えていたけど、何も思い浮かばないままに時間だけが過ぎた。

空は暗くなり、バスケットコートにはもう誰もいなくなっていた。赤く丸い街頭がコートの中を照らしている。僕はベンチから立ち上がり、そのコートの中に入った。


僕はボールを探した。

バスケットボールを探したけど、そこにボールはなかった。そこに立つのは僕一人だった。僕は誰かにボールをパスしたかった。けれど、パスする相手もいなかった。その前にボールもない。僕はずっと一人だ。


ずっと一人だった。


(つづく)