『何気ない毎にちを貴方に伝う』1ノ11
秋の月が浮かぶ。
月は四季関係なく浮かんでいるはずなのに、なぜか秋の月は僕の記憶に焼きつく。いつかの記憶ほど涼しい季節ではなくなったけれど、確かに秋には月があったんだ。
秋の月が浮かぶ。
僕は電車の車窓に浮かぶ月を眺めていた。仕事終りの時間に街へ行く。反対車線の電車は満員だ。僕は町外れの高校から町の家に帰る高校生に混じった電車に乗っていた。
今日もいつもの一日だった。
いつもと同じ一日を過ごしてきたけれど、学校へ行く事を止めてしまった中学生は僕に言った。
「先生、いつもと何か違うね」と。
「何が?」と僕は尋ね返した。
彼女は僕をじっと見つめていた。
僕は彼女の出ない回答を待てずに、先に答える。
「秋だから、長袖にしてみた。暑くて、大失敗だったけど」
「んんんん、違う。それとは関係ないよ~な」
「髪を切った。おとといだけど、ちょっと短くしすぎた」
彼女はにこやかになって、少し頷く。
「うんうん。すっきりした。そっちの方がいいんじゃない?」
「そう!ありがとう」
僕は素直に喜んでみる。
「でも、そうじゃなくて」
彼女はまた煮え切らない表情をし、僕に対してガンを飛ばす。いや、ただ見つめているだけ。彼女の一重の目は僕を睨みつけているように見える。
やたらとじっくり見た割には首を傾げる。
ああ、そうですか、と言いたい気分だが、そのままその話は終わった。
何も変わっていない?いや、僕は変わったよ。そう、登校拒否中学生に言ってやってもよかった。
月夜の街へ繰り出す。
不況の街の夜は閑散としている。
歩く人はまばら、路上の車は渋滞を連ねている。
(つづく)