「何気ない毎にちを貴方に伝う」1ノ8
ここにいる僕は何を願う?
日々の幸せでいいのか、もっと大切な何か、を求めるか。
結局、僕は孤独だ。
やけにやられている。だって、セミナーで求められると、僕は全てを否定されているみたいだから。
久々に、町の中心を訪れた。
家庭教師の派遣事務所は町の中心にある。10年前には古臭い駅の回りを今にも潰れそうな店が覆っていたけど、今ではロータリーができ、新しい店が立ち並ぶ、すっかり現代化した町の中心地だ。
今となってはなぜこの町に来たのか、すっかりわからなくなってしまった。
「まずは自分がどうありたいか、未来を想像する。それに向って生活する。そういった姿勢を持っていれば、高校生や中学生の生徒さんに勉強を教えることがスムーズに行く」
求められたのは、勉強をする理由。
自分が勉強する気持ちになること。
何のために勉強するかという理由を持つ事。
未来を形成する事。
なんとなく、今日まで生きてきた。それで十分だ。何の不満もない。
君が望むような、アットホームな家庭を持とうなんていう望みもない。僕は何となく空を見上げ、町の風景を見つめ、喫茶店の珈琲を味わい、古い小説を読んで、ゆったりとした時間を過ごす。
誰かに伝えられるような、立派な未来の姿は僕にはない。
不登校中学生のために、未来のために頑張っているんだよ、なんていううそ臭い自分の姿を作る事はできない。だいたいそんな僕を見て、彼女は真面目に覚えようと勉強をしだすのだろうか。たぶん幻滅して、より悪い関係になりそうだ。
コンクリートで固められた川の脇に佇んでいた。まっすぐ家に帰る気にならず、中心の駅から最寄の駅まで戻って、駅を出て歩いていて、そう、僕はこんな所に来ていた。
雨の音が辺りを包み込む。流れのない川面を雨が叩きつけている。まだ6時を過ぎたばかりだけど、暗闇は増していた。降り出した雨は少しずつ大粒の雨に変わり出している。暗闇が包み、雨の音が広まり、やがて全てが僕を孤立した空間に陥れてしまうだろう。冷たい雨が夏の香りを消し去ってゆく。少しずつ夜長の季節が近づいている。
僕はぽつんとひとりきり。
ここで雨に濡らされていても、明日はない。だから僕は家に駆け出した。全身を濡らして、心臓の鼓動を上げる。この感覚が生きている実感なんだ。
当り前の今でいいだろう?
素敵な未来を望まなくちゃいけないかい?
君はこんな僕に何て声を掛けてくれるのだろうか?
(つづく)