新世界76-夢世界 22-6
(つづき)
僕は追い込まれていた。背中はもう壁だ。仏陀は怒ったような笑みを浮かべる。その表情だけで、僕はぞっとする。
口がカパリと開く。
『やばい』
僕はとっさに左に走り出す。
予想通り、仏陀の口から炎が飛び出し、後ろの壁を焼け焦がしてゆく。
僕は間一髪で逃げ続ける。
炎は五秒で切れる。
一端切れて、またにやりとして、口が開き、僕は逃げる。
仏陀の首は炎を吐いているときは動かない。体の動きも鈍くなる。だから炎は最初の一瞬交わせば逃げ切れる。やつの炎はそうランダムに飛んでくるわけではない。僕を狙う。その瞬間を避けきれば、後は逃げ切れる。
少しずつ仏陀の動きが見えてくる。
炎を吐く瞬間の口の動きも単調だ。そう思うと恐い事はない。
しかし持久力は少しずつ奪われてゆく。僕の体は少しずつ硬直し出す。放たれた炎は触れなくても熱く、僕はその熱に少しずつ体力を奪われてゆく。
仏陀はいつまで炎を吐き続ける事が可能なのだろう?
持久戦を考える。しかし相手の炎が切れる事を考えていたら、恐らく僕の方が先につぶれてしまうだろう。
僕は仏陀の炎を避けながら、じりじりと距離を詰めていっている。危険なことはわかっている。しかしこれ以上、炎をよけ、逃げてもらちがあかない。
少しずつ、じりじりと、炎を吐く瞬間、左に走り回り、じりじりと近づく。
『次だ!』
僕は感じた。
口が開く。炎が飛んでくる。僕は左にかわす。炎が停まる。瞬間、奴の懐に飛び込む。まだ炎を出す準備態勢は整っていない。
仏陀はしまったという顔をしている。僕は腹部に強烈なボディーブローを食らわせる。
「ぐへえええ」
生身の体のような柔らかい腹にパンチは入った。
体は丈夫そうじゃない。
仏陀は後ろに倒れこんだ。
僕はすぐにその体に馬乗りになる。
仏陀は口を開き炎を開く態勢になる。僕は瞬時に右ポケットに入っていた麻酔入りの玉をその口に突っ込んだ。
右手は熱い。燃えそうなほど熱い。いや実際に燃やされている。しかし燃えているのは仏陀の口の中、燃えているのは仏陀の口。
仏陀は口から燃えてゆく。燃え出して、火が付いて、燃え出している。
僕はそれに気づき、馬乗りになっていた体を起こし、仏陀から離れる。
仏陀は燃えてゆく。
ゆっくりと、まるでただの人形のゴミのように燃えてゆく。
「はああ、はああ」
僕は大きく息を切らせていた。気づかなかったが、疲れきっていたようだ。
次の瞬間、出口の扉が開いた。
ゲームクリアか?と思ったが、そういうわけでなく、そこには左の男が立っていた。
僕は燃える仏陀を離れ、そっちに向った。
扉は一度閉まってしまったが、またすぐに開いた。
そして通路側に出る。
「あんたはやっぱすげえな」と左の男が僕を褒めた。
「そうでもない。なんとかだよ」と、僕は答えた。それから、右の男の事を聞いた。
彼は金を持って、すでにここから脱出したそうだ。
僕らもゆっくりと歩いてゆく。
僕らは通路を抜けたが、他には敵がいなかった。温雅兼はあの炎のやつに相当期待していたのだろう。他には何一つトラップを持っていなかったようだ。
地上に戻るとそこは来たときと全く同じ空間が広がっていた。あの地下の出来事が嘘のようだった。
しかしあの出来事は嘘ではない。僕の右手は酷いやけどを負っている。そして右の男は金のびっしり詰まった袋を持って、僕らの事を待っていた。
任務は終了だ。
これがボスのいう試練だったのか、確かに今回は本当にてこずった。危険な戦いだった事は確かのようだが。