新世界65-運命の幸運 3-2
(つづき)
公園で遊んでいた少年の蹴ったサッカーボールがニシキと沙希の間を転がり、まだ葉の付いていない木にぶつかった。
ニシキは何となく、そのボールに近づき、そいつを拾い上げた。ボールを蹴った少年は少し困った顔でニシキの方を見つめていた。ニシキは笑顔を見せて、サッカーボールを少年に投げ渡した。
少年はボールを足で受け取ると、何も言わずに去っていった。
「子供、お好きなんですね」と、沙希はニシキに向っていった。
ニシキはどちらかというと嫌いであった。というより人間嫌いであった。
でも、「ええ、子供は可愛いですよね」と答えた。
沙希は悩んだ表情を浮かべた。
「どうかしました?」と、ニシキは声を掛け、沙希の座るベンチに近づいた。
「あ、いえ、特に」と、沙希はニシキの質問を避けた。
でも、こういう時の女をニシキは知っている。きっと何かあって、慰められたい。そういう態度を女は時々見せる。
「何か、あるようだけど?」
と、ニシキは気さくな声で沙希に話しかける。
「大したことじゃないんですけど、わたし、小学校の教師をやってまして、最近少し子供たちとうまくいかなくて、なんていうか、子供好きだと思っていたんですけど、そうでもないのかな?なんて思ってまして」
ニシキはにこりと微笑んだ。
「ああ、そうなんですか?僕、子供相手のカウンセラーをやっているんですよ。いろいろと最近の子供は問題がありますからね」
もちろん全くの嘘である。でもニシキには理由のない自信に溢れている。自分はカウンセラーの気持ちになれる。詐欺師は現実でいかにうまくその役を演じられるかが勝負のポイントとなる。
「え、そうなんですか?」と、沙希は言う。
「なんだったら、話してみて」
「ああ、でも、プライベートで、申し訳ないですし」
沙希は少し遠慮する。
「いや、かまわないよ。お金を取るために、仕事を始めたわけじゃない。子供たちの未来を思って仕事を始めたんだ。困った話があったら、相談に乗るよ」
そして、沙希は学校の話を始めた。学級崩壊したクラスの話を永遠と二時間近く、語り続けた。
「ごめんなさい。こんな時間まで」と、沙希はニシキに謝った。
「いや、今日は休みだったし、ちょうど空いていたから」
「ほんとにごめんなさい」
「いえ、むしろありがとうと言いたいくらいだよ。どこかのだらしない主婦の、子供の話は聞きたくないけど、君のような可愛い女性の悩みを聞けるのは、むしろ嬉しいかぎりだよ」
なんてニシキは言ってみる。
沙希は嬉しそうに笑みを浮かべる。
ニシキはいつもの優しい微笑を浮かべている。
そしてニシキは沙希に携帯電話の番号を教えた。何かあったら相談においで、と言って。
ただ、騙すだけのはずだった。それが全てのはずだった。
でも、ニシキは少しずつ沙希に引かれていった。何もない地味な女性なはずなのに、何かがニシキの胸に残り続けた。
やがてニシキは感付いた。
人の恋をするとは、こういう事なのか、と。