ずっと西にある島 45.永恋 | 小説と未来

ずっと西にある島 45.永恋

赤き、大きな太陽が西の空に見える。


太陽はどこまでも大きく、全てを燃やし尽くしてしまうかのように輝いている。


キウは大きな鳥の足にぶら下がり、ずっと遠くの太陽を眺めていた。


音は風を切る音と、鳥の羽ばたく翼の音しか聞こえない。


地表は雲に覆われていて、何も見ることができない。


果てしなく続く西の空、太陽の輝く方向へと大きな鳥は向っている。


キウは赤い光に目が疲れ、目を閉じた。


しっかり捕まっていないと、どこかへ飛ばされてしまいそうだから、キウにできる行動は瞳の開閉、後はせいぜい首を動かす事くらいだ。鼻水を擦る猶予もない。



鳥が雲を突っ切り、地上へと降りていった時にキウは感じた。


『ここはもう西の島ですらないだろう。

 もう、僕は地表よりも低い世界に落ちていっているんだ』


灰色の雲の闇の先に落ちてゆく。太陽も同じように雲の下へと落ちていた。

そこは海ですらない。


雲の下で太陽は輝く。西の西には何もない。地の下には何も見えない。太陽の光さえ届かない。闇ですらない。そこは地が目に見えないほどの空がある。空の下には空がある。どこまでも遠く深い空。見上げた空の上が見えないように、見下げた空の下もまた見えない。その先にあるのは宇宙かもしれない。


大きな鳥はすばやく下降を続ける。

ただ落ち続けているだけかもしれない。


キウは目をチラッと開いては空圧に耐え切れず、目を瞑り、また開いて状況を確認しては目を瞑った。疲れが限界を超えていて、体は感覚を失っていた。それでも大きな鳥に捕まる力だけは残っていたのか、体から身を離し、飛ばされないように身を守った。


時が過ぎてゆく。

時間感覚さえも無に等しくなっている。



僕はどこへ行くのだろう?


光が陰となり、陰が光になっても、僕は変わらないだろう。


僕のやるべき事はカミを探すことだけだ。


それがいかに愚かで、くだらない事であっても、僕にはそれしか望めない。


叶った出来事がたとえ現実じゃなくて、本当にただの夢であってもいいだろう?


ここにある今だって、僕の感じている僕だけの世界にしか過ぎないんだ。


ただただ、僕はいつだって最も素晴らしい夢を追っていたいだけだ。


君といた、あの日あの場所のような時間を望んでいる。


あの日あの時、僕は夢を見、君も夢を見ていた。


夢と夢が重なり合う場所で、僕らは同じ望みの同じ夢を見ていただけかもしれない。


僕らの夢は再び交差し合うだろうか?


君と触れ合い、共に送った時間から、新たな夢が生まれただろう。


新たな夢はまた同じ夢を求める新たな夢を求め、未来へと繋いでゆくだろう。


僕は何の後悔もない。


この迷い道、この先に何もなくても、僕はカミ、君だけを求め続けるんだ。


果てしなく続く、異空間の先に、僕は僅かな希望を持って、ただ歩み続ける。



大きな鳥は徐々にスピードを上げていった。

キウは僅かなスピードの変化が起こるたびに、大きな鳥の足をしっかりと掴んだ。


見渡す限りの世界はあまりのスピードに光の粒子へと変わってしまった。

キウは光の粒子に覆われた。

光の粒子しか見えず、キウ自身も光の粒子になってしまったかのようだった。


やがて意識は失われ、全てが無になった。



全てが無になって、時が大きく隔てて、キウは波の音を耳にしていた。


穏やかな波の音が耳に入り、キウは自分の意識がある事に気づいた。


目はまだ瞑ったままだった。


ここはどこだか考えてはみたが、その答えをまだ知りたくはなかった。


浜辺に頬をうずめている。砂の感触が冷たく心地よく感じられた。


太陽の明かりは天より強く輝いているようだった。


目を開けば、そこにある太陽を見ることができるだろう。


けどキウは目を開けず、意識を失ったままのふりをしていた。


少しだけ影が覆い、キウの目の内の眩いばかりの明かりは仄かな明かりに変わった。


キウの目の上には人が立っているようだった。


優しく、甘い香りのする。女性の香りのようだった。


きっと黒く艶やかな髪の女性がそこに立っているにちがいないとキウは想像した。


でも目は開けなかった。


ずっと意識を失ったふりをしていた。


この先もずっと意識を失っていたかった。


夢を見ている気分が続けばいいと願っていた。


どこまでも夢のまま、現実に触れずに生きていたかった。



それでも生きている限り、やがて僕は現実に触れるだろう。


また痛みを感じながら、僕は現実で生きてゆく方法を学ばなければならない。


優しい事はそういくつもない。


生きている限り、現実が続く。


それでも夢に出逢いたい。


もう一度でいい。もう一度でいいから、君に逢いたい。


その夢を追って、僕は現実を生き続けてゆく。


やがて僕は目を開くだろう。


そこにいる誰かに出逢うだろう。


それまでしばらく僕はここで夢を見ていよう。


現実が夢に変わる日が来る事を今も僕は諦めていない。


きっと君はそこにいる。


僕は今日もその瞬間を待ち焦がれている。


僕は今日も夢と夢が重なり合う瞬間に、胸躍らせている。




ずっと西にある島 完