ずっと西にある島 44.大鳥 | 小説と未来

ずっと西にある島 44.大鳥

小屋の入口にある小さな木の椅子に老人座っている。


キウの存在に気づくと、老人はキウの方に目をやり、微笑んだ。


「どうした?世の中から逃げてきたのか?」

と、老人はキウに尋ねた。


「そうかもしれない」と、キウは答えた。


「まあ、こちらへ来なさい」と、老人は言った。


キウはその言葉に甘えて、老人に近寄った。


「世の中はまだ滅びていないのか?」と、老人はキウに尋ねた。


「人は皆、いろいろなものを守り、生き続けようとしています。とても立派な人もたくさんいます」


「それはよかった。で、あなたはどうしてここへ来た?」


「こだわり続けて、とりわけ理由のない夢を追って、どこへ行っていいかわからずに、ここへ来ていた。求める事がやめられず、夢が生きる理由になってしまっている。こんな生活がしたかったわけじゃない。僕はもっと当り前の幸せを望んだはずなのに、どうしてもどうしようもなくて、僕はここまで来てしまった」


「ここに来ても、求めるものは何もない。それ以上に何もありはしない」


「わかっている。きっとそうだと思っていた。だけど僕はここへ来ないわけにはいかなかった。どうしようもないんだ。もう」


「君は、自分が特別な存在だと思うかね?」


「神様じゃない。カカラじゃない。僕はカミという女性にとって唯一でありたいけど、他の誰かからは、ただの一般人で構わないんだ。ただの人だよ」


カミという女性を探しているのか?としてもここにはいないぞ?」


「わかっている。そんな事は当り前だ。でも僕はカミを求めている。求めているためにどこにでも行かなくてはならないんだ。それしか僕にはやることがない。他の何を求めても、やる気にならない。それだけでしか、僕は力を注ぐ事ができないんだ」


「そうか。そうだとしたら、大きな鳥を待ってみるといいだろう


「大きな鳥?」


「山の頂には一羽の大きな鳥がいる。大きな鳥は君を捕まえ、君をどこかに運んでくれるだろう。どこへ行くかはわからない。ただ、可能性を求めるのなら、わしに教えられることはそのくらいだ」


キウは老人の言葉に視界を狭めた。もう見るのは山の頂のみだった。

だからそこに留まりもせず、使い果たせる力の全てを注ぎ、キウは山の上を目指した。



短草原がどこまでも続いていた。

他には何もない大地だった。

キウは水をぐいっと飲むとそれを力に歩き続けた。

どこまでも同じ世界の時間が続いた。辺りの明かりの具合だけが変化を続けた。

頂上がどこにあるのか、キウにはさっぱりわからなかった。

霧が立ち込め、キウは迷いそうだった。

でもキウには一方しか歩く方向がわからなかった。

ただその方向を目指した。


鳥はキウを見つめていた。

じっと静かにキウを見つめていた。

大きな鳥だった。

その鳥は霧の中にぽつりと立っていた。


キウはそっとその鳥に近づいていった。近づいても、鳥は逃げなかった。むしろキウをじっと見つめ、キウが傍に来るのを待っているようだった。

近づくと、鳥はあまりに大きく、足しか見えなくなっていた。

キウはその鳥の足に摑まった。


集中していて気づかなかったが、キウはとても寒い事に気がついた。安堵感はキウに強烈な寒さを感じさせた。

とても寒かったが、対称的に鳥の足に温もりを感じている事ができた。さらに、なだらかなカーブを描く鳥の足はキウにちょうどよくマッチした。キウはそこに居心地の良さを感じた。そのまま眠ってしまいそうだった。


だがその心地よさは一瞬にして消えていった。

大きな風がキウの体を襲った。

それは風ではなかった。

大きな鳥が羽ばたこうとしているのだ。

キウはしっかりと大きな鳥の足にしがみついた。

足はゆっくりと地上を離れてゆく。

そして徐々に地表は見る見るうちに遠く小さくなっていった。



大きな鳥は僕をどこへ運んでゆくのだろう?


もう僕には何の力も残っていない。


この鳥の足にしがみつくのが精一杯だ。


これが全てだ。


僕にはもう何も残っていない。


僕を行きつかせてほしい。