ずっと西にある島 35.貌人 | 小説と未来

ずっと西にある島 35.貌人

「あなたはなぜ僕をここへ呼んだのだろう」

と、キウは彫刻のような女に尋ねる。


「わたしはここを司る者、ケイチョウと申す。

 光ある窓辺より、あなたの姿が見えた。見知らぬ者を知りたかった。

 ただそれだけだ」

自らをケイチョウと名乗る女はキウにそう伝える。


「確かに、僕には何もない。ここへ来た正しい理由なんてない。

 ただ平穏な毎日を望んだだけなんだ。

 世の中が壊れてゆくような感じがして恐かった。僕はそこから逃げ出したかった」


「未来とは、常に不安なもの。

 しかしそれを恐れれば恐れるだけ、あなたは強張り、動かなくなるだけだろう。

 だから未来は恐れるべきじゃない」


「僕はもう、逃げ出してしまった。

 心が逃げて、ここに来た。もうどうする事もできない。

 僕はきっとここに逃げてきただけなんだ。僕は僕を導いたんじゃない。

 ただ逃げたかった。それだけだよ」


ケイチョウはにやりと微笑んだ。

「決めつけることはない。あなたを西の端に案内しよう」



ケイチョウはすっと立ち上がり、キウの横を過ぎて、キウが上がってきた暗闇の階段の下へと降りてゆく。

周りの女たちがざわついている。

一緒に来た小さな女が慌てて、ケイチョウの後を付いてゆく。

そしてその女はキウにも一緒についてくるように手招きをする。



光を出て、闇を抜けて、キウらは再び光あたる地上へと出る。

森に覆われた地を西へ行く。

そして広場に戻る。


「わたしの名はカナスナスティア。ケイチョウ様に仕えるもの。一緒にお供いたします」

と、小さな女はキウに名乗った。


「僕はキウ。グァンダーの地から来ました」

キウは自分の名を告げていないことを思い出し、カナスナスティアにそう名乗った。



広場にいた、多くの人がざわついている。

ケイチョウの姿に驚いているようだ。


「彼女はケイチョウか。わたしも始めてお会いする。彼女はめったなことでもなければ、石の宮殿からは出てこない。カルミンヌオールのお偉い方だ。噂どおりの美しい人だ」

ハバルヒラはユスティスにそう伝える。


ユスティスは自分の方に近づいてくる大きな女性の方に目をやる。

後ろからキウが付いてくるのが見える。


「キウ。彼女とはどうしたの?」

と、近づいてきたキウにユスティスは尋ねる。


「わからない。とにかく、僕は彼女と西の端へ行く事になった」


ケイチョウはユスティスを気にせず、ハバルヒラに話しかける。

「あなたはとてもバランスの取れた方ですね。あなたはあなたである事に感謝しないといけませんね」


「これはお褒めの言葉、ありがとうございます。でも私にはいくらでも理解できない事があります。

 あなたはそこにいるキウを連れ、どうして西へ行こうとするのですか?」

ハバルヒラはケイチョウにそう尋ねる。


ケイチョウは遥か西に広がる森を見つめる。

空は青く、森は穏やかだ。

「この者は特別な者だ。ずっと東からやってきたのだろう。

 カカラの事も知らない。私はこの者に伝えないとならない事がある」


「カカラの事なら、グァンダーの地で学んだ。

 僕は何だかんだ言っても、この地で2年は住んでいる」

と、キウが横から話に入り込む。


ケイチョウは何故かキウが遥か東から来た事を知っていた。

その事を不思議に思うが、その事をキウはとりあえず聞かなかった。


「それでもあなたはずっと西に行き、見る必要がある」

と、ケイチョウは言う。


キウは頷いた。

「そうですね。僕はあなたの言うように西の端へ行ってみたい」


「予期せぬ出来事が起きたとき、予期せぬ事に対応しなければ、人生は退屈に過ぎてしまう。

 今こそ、予期せぬ出来事を行うべきとき。だから、私はこの者と西へ行く」


ケイチョウはハバルヒラにそう伝える。


ハバルヒラは頷いた。

「そうですか。わかりました」


ユスティスも頷く。



僕はどこへ行くのだろう。


ずっと西、そこには何があるのだろう。



キウたちは西へ行く。


ユスティスは再び売買を始める。



不思議な事が起こっているのだろうか?


僕は意外な出来事を起こしているのだろうか?


ただのつまらない人間なのに。