ずっと西にある島 31.全夢
現実の見えない朝だった。
キウは壊れてしまったようだ。
生きる道を見出せず、望んだものも幻だった。
全てから逃げている。ただカミに会いたいと思っている。秋の森に帰りたい。
キウはそれでもまともを装って、ユスティスと旅を続ける事を決めた。
「もう大丈夫です」
と、キウは言った。
自分でも何が何だかわかっていない。
キウは自分が言った言葉やハバルヒラと話した言葉について考えるが、どこにも答えは出てこない。
半分は消えるもの?半分は永久に残るもの?
遥かに沈んだ向こうからやってきた?
キウはただ夢を見て寝ぼけていただけだったのかもしれないと感じている。
今も夢なのかもしれないと、感じている。
オレンジ色の花びらも黄色の花びらも、カプセルを飲んだのも全て夢だったのだろう。
だからハバルヒラは、「たくさんの夢があり、僅かな現実がある」と言った。
たくさんの事は夢で、現実は一つしかない。
キウはそれを理解しなくてはならない。
何が夢で、何が現実か、その答えが必要なんだと感じている。
ハバルヒラに先導されながら、ユスティスとキウは森の中へと進んでいった。
がたつく道を荷車を押しながら進んでゆく。
蝉時雨、夏の森。
ハバルヒラはキウに近づき、尋ねる。
「ここがムオマーの地、森だ。君は何かを感じるか?」
キウは木洩れ日の差す、薄明るい森を見つめる。日本の森と何ら変わらない気もする。
「よくはわからないけど、この森は好きです」
と、キウは答える。
大きな湧き水の涌いている池についたところで、キウらは立ち止まり、休憩した。
汗を拭いて、地底から溢れてくる湧き水を飲んだ。
キウはほっと心を落ち着かせてくれる。
目を瞑れば、自分の住んでいた町の森にいるかのような錯覚に捕らわれる。
ノスタルジックな時間が流れる。
「君の望んだ探し物の旅だ。君が必要としていた何気ない時間だ」
と、ユスティスはキウに言う。
「ここからやり直すつもりでいました。でも、僕はここで終わりそうです。
何となく、そんな気分です」
緩やかな森の営みを感じる。
少し時間が経てば移る日差しの動きが時の流れを知らせる。
目を上に上げると、そこには大きな木がある。
過去から未来まで、蝕まれる事もなく残る永久木の一枝が揺れる。
森は語りかける。
日差しの一塊が大きく抜けた何もない地上を照らす。
君は求め、欲している。
秋の森。
黄色い木の葉。
池の中心にある浮島。
赤い森。
木の根。
失われてゆく自然にありし、言葉。
光が輝かない場所に入り、光を待つ星のかけら。
雪だまり。
桜の道しるべ。
君は歩いていた。
こんな辺鄙な道の上を。
求め、求めて。
大きな荷車を押しながら、当てのない旅を。
森はキウに語り掛ける。
『君はここに何をしに来たのか』と聞いてくる。
キウは真実と異なる僅かな夢を今も見続けているだけのような気がした。
どこかに辿り着けば、この夢は終わるのか。
キウは全ての夢の終わりを求めていた。
でもそれは現実の終わりでもあるかのような気がしていた。
何も見えない今とその先の未来への旅が続く。