ずっと西にある島 30.彷魂
翌朝の弱い光が周りを包んでいた。
キウは目を覚まし、体を起こして、大きく背伸びをした。
ユスティスは隣でまだ眠っていた。
キウはユスティスを起こさないように、そろりそろりと動いて、テントの外に出た。
外にはハバルヒラが座って待っていた。
一日中、そこにいたかのようだった。
「ごめんなさい」
と、キウはハバルヒラに謝った。
「いや、いいさ。それより、君は森に来たくて、ここに来たそうだね。
それは何か意味があるのかな?」
ハバルヒラはキウの体調などは気にもしないかのようにそう尋ねる。
キウは知らない地に来て、不思議と何でも話せる気がした。
「ずっと思っていたことは、ずっとうまく行っていないってこと。
僕は今もうまくいかず、この先もうまく行かないってこと。
僕はどこにいても、毎日が不名誉な役立たずなんだ」
「崇める者もいず、ただ消えよう。我ここにありて、ここになし」
誰かがそんな言葉を口にする。それはハバルヒラではない。周りには誰もいない。キウ自身がそう言っていた。
「なら、汝、いずこへ行くのか?」
と、ハバルヒラはキウに尋ねる。
「片方の半分は、いずれ消えてしまうもの。もう片方の半分は永久に残るもの。
半分は恐れを感じ、半分は苛立ちを感じている」
キウは自分の口が自分の口でないように、そう口にしていた。
「君が追うものが私には見える。君が苛立つものに君は勝てない」
朝が訪れていた。遥か東の空に日が昇る。
「遥かに沈んだ向こうから、僕はここに集うものとしてやってきた」
キウは遠くの赤い太陽を見つめ、立ち上がってハバルヒラにそう話す。
ハバルヒラは何も言わず、キウは話を続ける。
「社会の中にはあれなかった。
全てを作り出し、司る中枢層は破壊されるだろう。
誰もが自分自身の喜びを求めているはずだから、全てにおいて善や良もなく、僕らは間違えとなり、その間違えに気づけないまま、破壊に走るだろう。
組み込まれた支配下で一度暴走が始まったら、僕はどこまでも壊れてゆく。
社会は始まった破壊の暴走を止められない」
意味不明の言葉に対して、ハバルヒラはその意味を理解しているかのようにキウに尋ねる。
「ただ一つ、君は森に持っている。それは何かな?」
深緑で覆われるだろう。
淡い水色の筋が、光覆われた空間の先に見える。
僕はオレンジ色の花びらだった事もあったし、黄色い花だった事もあったろう。
カプセルを飲み込んだときにスイッチは入っていた。
もう止められなかったんだ。
生まれたての赤子のように、自らの行動に責任が持てなくなってしまったんだ。
ハバルヒラは微笑んでいた。逆行の光を浴びながら、若い楓の葉が揺れる木の前で確かに微笑んでいた。
そしてハバルヒラは立ち上がり、キウの顔を覗き込んだ。
黒くがっちりした目がキウの瞳を捕らえていた。
「一つは現実。一つは夢。たくさんの夢があり、僅かな現実が起こる」
浮遊した思いと、形になった現実。
人が作り出したもの。
結果となったこと。