ずっと西にある島 23.望与
サパジが統領になったのは11年前の事だった。
11年前のその年は干ばつで、ムフォの時期に、20人と8人が死に、70人余りの人間がムフォに死者を運んだ。
人々はあまりに暑く、作物も不作、水も少ない時に死を恐れ暮らしていた。
「このままどうなってしまうんだろうな」と誰もが嘆いた。
街の統領であったプリストは、カカラ神に祈りを捧げ、十分な奉納を行った。
それでも、太陽は照り続け、雨は降らず、農作物は枯れて行った。
プリストは太陽神サラへの祈りを深め、さらに祈り続けた。
それでもモクヮーナになる季節には、さらに人が飢餓で死に、死者は五〇人にまで達した。
ため池の水は徐々にかれ始め、食物の収穫こそあれど、とても一年は持ちそうになかった。
プリストは神に祈り続けたが、その祈りは到底届きそうになかった。
サパジは19歳であった。16の時から灯台守として、ジルサというおじさんの下で仕事をしていた。
毎日一日として遅刻すらしたことのない男であったが、ある日、時計台に来ない日があった。ジルサは黙ってその日を一人で仕事をして過ごした。
サパジは町中の人々の下を訪れていた。
「こんにちは」
「ああ、君は確か、ミショライさんの息子のサパジだね。どうかしたのかな?」
「いえ、ただ皆さんが元気かどうか、知りたかっただけです」
「ええ、元気なわけないだろう?こんな世の中じゃ。もう動く気にもならないよ」
「元気を出してください。きっとまたいい日はやってきますから」
「そうかなあ?」
「大丈夫です。僕は信じているんです。そうなるって事を皆が信じればきっと良くなるって」
「はは、そういうものか?でもいいな。俺もそう思っておくか」
「はい、そう思ってください。お願いします」
「お願いって?じゃあ、仕方ないああ。そう思いましょ、ははは」
そんな感じで、サパジは町中を回り続けた。
いつしか人の死は聞かなくなり、時々、弱い雨も降った。
それは神のお告げのように、サパジの行いと共に、シパーガの頃には何事もなかったかのような日々が訪れるようになった。
プリストはサパジを領事館へ呼び寄せた。
「すみません。時計台守りをサボっていました」
サパジはその事を言われると思い、プリストに謝った。
「いや、そうではない。君が街々を回って、人々に元気を与えたそうだな」
「いえ、そんな元気を与えるとかじゃなく、ただこんな状況の時に何もせず、ただ鐘を鳴らすのが嫌だっただけです」
「そうか、確かにそうだな。私はただ神に祈りを続けていた。そして街の人に何も与えられなかった。君のように私は優れた行いをできなかった」
「何を。おかげで雨は降り出し、またいつもの日々が戻ったじゃないですか」
「いや、そうじゃない。私は大切な事を忘れていた。危機の時に一番大切な役割を果たすのは、危機に対する恐れを忘れさせてくれる希望だという事。君は人々に希望を与えた。その事がいかに大切だったかを私は忘れていた」
「いいえ、ただ、僕は街の人の顔を元気にさせたかっただけです。暗い顔を見るのが嫌だっただけです」
「そう、その心が大切なんだ。それがとても世の中には大切な事なんだ。君にはそれを人々に与える力がある」
「ありがとうございます。そんな大した者ではありませんが、プリストさんにそう言われて嬉しく思います」
「それだけじゃない。私は君に統領になってほしいと思っている」
突然の申し出に、サパジは驚いた。
「そ、そんな。僕には時計台守の仕事があります。ジルサさんももう齢ですし、僕が継がなくてはなりません」
「いや、その仕事は私が継ぐ。君は明日から統領になりたまえ」
半ば強引な話ではあった。それでも数日後に、信任投票が行われ、サパジはプリストに継ぐ統領として、グァンダー中の人々に了承された。
「大切なのは、賢さじゃない。人を救う心だ」
プリストはそう言う。
サパジはその後、11年間、街の統領を誰にも譲っていない。本人の気持ちは誰かに譲りたいが、統領の側近は誰もサパジを越えてないと、信任投票に至る事も許さなかった。
それだけ、サパジは周りからも、街の人からも信頼されているのだ。
僕は何もない。
当り前だけど、僕は凡人以下のつまらない人間だ。
優れた人の話をされても、僕はどうにもならないだろう。
キウは心の中でそうぼやく。
それが何だといいたいのだろう。