ずっと西にある島 8.憶替
出来るだけ、長い、浅い眠りを続けていたかった。
夢が僕を、また秋の森へと誘い込んでくれるんじゃないかと望んだんだ。
過去を振り返らないと、過去はどんどんあやふやになって行く。
日記も、思い出の品もなくなり、キウの過去はどんどん曖昧な記憶になってゆく。
あるのは、今日今この時だけ。ここにある自分の存在だけ。
オーカッは最近、キウを町へと連れ出す。
引きこもりのキウを気にしているのかと、キウ自身は思ったが、実際はただいろいろな物を実際に見せて、いろいろな物を覚えさせようとしているだけのようだ。新しい言葉、新しい記憶が増し、そっちに集中する。過去の言葉、過去の記憶があやふやになってゆく。
キウは頭がいっぱいいっぱい。いや、ただ、過去が消えてゆく寂しさを感じていただけかもしれない。どことなくやる気のない態度で、キウはオーカッの説明にただ頷いていた。
オーカッはそんなやる気のない態度を見せるキウに腹を立てている。人前では大声を出して怒鳴ったりはしないが、長く親しんだだけあって、キウにはオーカッの気持ちがすぐにわかってしまう。
どんな人と話をするのも面倒だ。
いろいろな新しい習慣も面倒だ。
キウは素っ気ない態度を続ける。
そんな日々がまた十数日続いた。
ある朝、彼女は姿を見せなかった。たまに休む日もあったが、そういう日は事前にキウに告げていた。
その日はキウに何も言ってはいなかった。
キウは気にせず、昼まで何もせずボーっと布団に寝転んでいた。
でも昼過ぎになって、ついに飽きた。目も覚めたし、お腹も空いていた。いつもならオーカッが朝食のパンを持ってきてくれるのだが、今日は朝食もない。
このまま昼食も夕食もないだろう。キウはペットのように何も出来ない自分を感じる。
でも、僕は人間だ。
だからキウは歩いて領事館へ行った。
国の統領サパジは図書室で本を読んでいた。キウは衛兵の断りを得て、図書室までやってきた。
そして尋ねた。
「オーカッが来なくなってしまいました。サパジさんは何かご存知ですか?」
サパジはしばらく黙っていた。キウが自分の発音が悪く、意味が聞き取れていなかったのかと心配するくらいの嫌な沈黙だった。
でもサパジは口を開いた。
「君にとって彼女は必要か?」
少し間を置いて、「はい」と、キウは答えた。
「彼女は自分が役不足だと言っていた。君もそう思うか?」
キウはそんな事を考えた事もなかった。オーカッの存在について、そこまで考えた事はなかった。
だからキウはハッとした。オーカッはキウが思うより遥かにキウの事を考え、言葉を教える事に一生懸命だった。キウはそんな事をふと記憶の中から感じ取った。
サパジは言葉を続けた。
「もし君が、オーカッを必要としているのなら、君の言葉で彼女に、君が必要だと言ってほしい。それは君にしか出来ないことだからね」
キウはオーカッを必要としていた。でも不安でいっぱいだった。
僕の足りない言葉で、僕は君に伝えきれるだろうか?
僕には君が必要だと。