雨に沈む町 28.如月葉月の家にて
さようなら
さようなら。
この森で君と出逢った。ありがとう。さようなら。
僕は自分らしく生きるために、この町を出てゆく。
そして、
如月葉月の家にて。
「お父さん」
葉月は帰ってきた父親に声を掛けた。
「どうした?」
「今日、揮宇君がここに来たの」
「ああ、そうか、お父さんいなかったからな」
「町を出て行くんだって」
葉月は強い口調でそう言う。
「そうか」
「わたしはどうしたらいいかな?どうする事もできない事はわかっている。だけど何か寂しいね。そんな事をお父さんに言っても仕方ないんだけど」
「とても残念だね」
と、優介お父さんは言う。
「そうなの。とても残念なの。
でも、彼はそうしたいんだろうなって思う。
あんなに目を輝かせている人を見たのは初めてだった気がする」
葉月も少しだけ目を輝かせる。
「それってとても素敵な事だね
葉月には、揮宇君のように何かしたい事はないの?」
「さあ、よくわからない。よくわからないけど、わたしは町を出て行きたいとは思わない。ただ…」
「ただ?」
「そうね。ただよ、お母さんみたいなのもいいかなとも思わないでもないかなあ」
「どっちやねん」
と、娘に突っ込む父親。
「さあ」
話はそこで終った。そして葉月は自分の部屋に戻った。
葉月はとても寂しかった。きっと揮宇の事が好きだったんだろうと感じていた。最後までその想いを告白する事はできなかった。でも彼には別にやりたい事があるんだなって感じて、そうやって生きていってほしいと感じたから、想いは自分の内にとどめる事にした。自分にはできない自由な生き方を揮宇にはやってほしいと感じたのかもしれない。
わたしはいつまでもここにいるのかもしれない。
葉月は泣きたいけど泣けなかった。
揮宇の輝く瞳を思ったら何だか、元気が出てきた。そして勉強しようと思った。何ができるわけでもないけど、もう少し綺麗な女の子になろうと考えた。いい大人の女になろうと考える。
「さよなら、揮宇君」
やっぱし、涙は頬を伝っていた。
やっぱし悲しい。
だから、泣くだけ泣いて、おやすみ。
涙は頬を伝い続けた。