雨に沈む町 14.花見
日差しのない日々は続く。
それでも春になると、桜が咲いた。
会社の人の家にある大きな桜の木で花見をしようという話もある。
空の下ではできないが、この町にも日本で当り前の風習が根付いている。
揮宇はその風習に日本の良さと季節を感じる。
ここは秋の森ではない。季節もまたいいものだと思える。そうやって現実になれてゆく。
会社には慣れた。
でもイライラする奴もいるし、八つ当たりする奴もいる。
人間関係は面倒だ。
そう思えば、秋の森に帰りたいと、揮宇はまた内にこもる。ずっと秋の森で寝ていたかった。
果実(かみ)と男女の関係になったことを後悔する。
あれは間違いだったと言いたい。もう一度、やり直したい。
君と交わりきらなければよかった。そんな事が許されただろうか?
僕はこの生活の未来に何の夢も見られない。
もともと夢なんてなかったけれど、果実と一緒ならいくつかの未来を描くこともできたのに。
今じゃその全てが夢というよりはただの妄想みたいだな。
揮宇はそれでもどこまでも情けなく妄想を描く。
そんな妄想ばかりしていると、仕事で間違いをして、また嫌な奴にここぞとばかりに怒鳴られている。
優しい上司が間に入って止めてくれる。
本当のところ僕は仕事をする事になんて向かないのかもしれないな。
だから神様が僕を秋の森に連れ込んでくれたんだ。
それなのに、僕はその恩恵を無視して、こんな場所で未来もない暮らしを選んでしまった。
穏やかな課長は花見の家でも笑顔だった。
何がそんなに楽しいのかと、揮宇は尋ねたい気分だったが、嫌味っぽいのでそれは聞かないことにした。
雨の下での花見。
うちの中から桜を見ながら、茶の間で寿司を食べて、日本酒を飲む。
「まあまあ、なんか悩んでいるの?」
と、課長は揮宇に尋ねる。
「いや、別に」
「難しい事は考えないで、まあ、酒でも飲んで、上手いもの食べて、それでいいじゃないの」
それで、いいのだろうか?
僕はどうしてもすっきりできない。
心に詰まる過去がある。
誰にも言えない秋の森での出来事。
僕はその答えを出したいはずなのに。
ただ雨に降られる桜を見上げている。
散り舞い地上に落ちたびちゃびちゃの花びら。
僕に等しく哀れみを感じる。
まだ冷たい空気が体を凍えさせる。
こたつに温まり、熱燗を頂く。
人の盛り上がりと裏腹に、僕の心は冴えない。
雨に沈む町での日々は今日も続いている。