雨に沈む町 12.如月葉月の話 | 小説と未来

雨に沈む町 12.如月葉月の話

ふとした機会に、揮宇(きう)は如月葉月(きさらぎはづき)の事を知ることとなった。



如月葉月は山の上にあるダムを管理している両親の娘だ。


葉月の父親も、揮宇と同様に別の町からやってきた人だと云う。


その父親がこの町に暮らすようになり、彼女の母親である如月卯月(きさらぎうづき)と恋に落ち、結婚したと云う。


葉月の母親である如月卯月は生まれた頃からダムのある場所に住んでいた。

というは卯月の父親がダムの管理をしていたからだ。

つまり如月葉月の祖父がダムの管理をしていて、葉月の父親が結婚を機にそれを引き継いだわけである。


さらにさかのぼると、その祖父も別の町からやってきた女性と結婚したと云う。

つまりは如月葉月の祖母もまた別の町の人間だった。


とはいえ祖母娘である如月卯月を産むと、1年も経たずにダムでの生活に耐えかねられずに出て行ってしまったと云う。


如月卯月(如月葉月の母)男手一人で育てられ、如月葉月の父親である優介と結婚した。


つまりこの町の重要なポストであるダム管理の仕事をする人物はここ3世代みな、別の町の人と結婚しているというわけだ。



大家の息子はその話を知っていた。

そして、揮宇は如月葉月と会った事を伝えると、「次はおまえだな」なんて冷やかした。


「あのねえ、確かにあの子とは偶然あったけど、それだけだよ。別に何もないよ」

と、揮宇は答える。


如月葉月は16歳だ。まだまだ子供だ。揮宇は20歳。それに揮宇は今も果実(かみ)の事を忘れられない。だから揮宇はそんな事があるわけないと確信している。

そして果実の事を思い出し、また遠いあの日の森の中へ脳をタイムスリップさせる。


「何考えているんだよ」

と、大家の息子が言う。


「いや、別に」


「如月葉月ってかわいんか?俺、会った覚えがないんだけど、おまえ変な妄想するなよ」


「違うって」

本当に違う。僕が妄想しているのは、果実の事。

妄想って、おい!

でも、妄想である。

もう、果実の居ない時間を、果実といた時間と同じだけ過ごしている。

濃厚だったあの頃の記憶を僕は忘れられない。



何もなかった果実との濃密な暮らしが終わり、何かやる事がある薄っぺらい日々が今日も繰り返されている。


この生活には何もない。


揮宇は岩崎が言っていた事を感じる。


心の奥底では、今ある生活を変えたいと思っているのかもしれない。



窓辺の外では雨が降る。

タカン、タカンと雨は窓を叩く。

冷たい空気の冷たい時間を、こたつでぬくんで、揮宇は再び訪れる春を待っている。

冬の日、雨続き、心眠る、暗い部屋の中、果実なし、実らず、見つからず、退屈な生活、雨降り、雪ならず、今日も繰り返す、暗い曇り空、冷たい、沈む、町の中に、君の声は聞こえない。