雨に沈む町 8.彼女探し | 小説と未来

雨に沈む町 8.彼女探し

雨は今日も降っていた。


揮宇(きう)は変わらない毎日を送っていた。


秋の森での出来事を思えば、雨に沈む町は遥かに現実的な場所だ。


テレビもあるし、ゲームもある。


揮宇の部屋にはいまだにテレビもないが、同じアパートに住んでいる大家の息子の部屋で遊ばせてもらっている。


新しい世界で、新しい友達ができた。


多くの人は揮宇の事を珍しがって、雨静海町の外の話を聞いてくるが、大家の息子は意外とそんな事は関係なく接してくれる。


だから揮宇は大家の息子と気軽に付き合える。ほとんど彼の家で、揮宇は遊んでいた。


家の外で遊ぶ事はない。これは町の人も同じだ。運動をしたい場合は体育館に行くしかない。体育館はおそらく他の町に比べてたくさんある。でも揮宇はもともと運動嫌いなので運動はしない。



時間を忘れたペンギンという名の歌を歌う。


時間を忘れたペンギン


雨降り、雨降れ、もう過去はない…


いくつかの点において、この町にいると他の町にはない不思議な習慣に会う。


ペンギンの歌もその一つ、どこかの小学生が歌っていた謎の歌だが何となくそのフレーズを揮宇は憶えてしまった。



揮宇は一人の時、果実(かみ)の事を思い出す。彼女がどこへ行ってしまったのか、どうしているのか、その事を想像する。


僕は彼女の事を想う。

そして彼女も同じ気持ちでいてくれる事を望む。


気分の落ち着かなかったある日、揮宇は役場を訪れた。


そして自分と同じように別の町からやってきた女性がいなかったかどうかを調べてもらった。


でもそんな人はいないと、役場のお姉さんは答えた。


次に揮宇は森へと足を運んでみた。


あの日、あの時、揮宇は秋の森から出てきた森だ。


まさか彼女の死体でもあったらどうしよう?なんて嫌な気持ちを持ちながら、果実の手がかりとなりえるものを探した。しかし何も見つからない。もちろん彼女の死体は転がっていない。


代わりに揮宇は如月葉月(きさらぎはづき)と出会った。


「こんなところで何をしているの?」


揮宇には答える言葉が見つからない。


「ここは結構危険なんだよ。雨の強い日にはその川が増水して、森に入る橋が渡れない。戻らないと戻れなくなるよ」

と、如月葉月は言う。


「それなら君だって同じだろう?」

と、揮宇は言い返す。


「それは違うわ。だってわたしはこの森の上に住んでいるのですものだからわたしは晴れた日とかあまり曇りの日に出掛けるの。それだけ」

と、如月葉月は揮宇の納得する答えを返す。


如月葉月は16歳。森の奥にあるダムの水量調整を仕事としている両親と祖父と共に暮らしている。


彼女はそんな話を語った。


「わかってくれた?」


「そうか、わかったよ。でも最後に一つだけ聞いていいかい?」


「なあに?」


「この辺りで女の子を見かけなかった?年は僕と同じくらいなんだけど」


「…。知らない。あなた以外の人を最近ここで見た事はないけど、その女の人は?」


「いや、何でもない。じゃあいいんだ」


「…」


そういう感じで、揮宇は如月葉月と別れた。


果実はやはりこの町とは別の場所に行ってしまったようだ。

揮宇はどうしていいかわからなかった。ただ淋しい気持ちが心の内に詰まって、胸が痛いだけだった。


もう過去は忘れようか、と思う。