雨に沈む町 6.大家の息子 | 小説と未来

雨に沈む町 6.大家の息子

やる事は、あれやこれやとあった。

会社へ行く。役所へ行く。家具を買い揃える。食べ物を買う。些細な事だが、いろいろとある。


揮宇(きう)はできる限り明るく、町の人と接している。

会社の人、役所の人、近所の人たちに笑顔で接している。


小学校に上がった時分の自らに重なる。

新しい生活の始まりに、揮宇は自然と笑みを零していた。そして何を話すわけでもなく、上手に相槌を打っていた。

いつからかそうなくなり、小さな自分の世界に閉じこもるようになった。その究極が「秋の森」だったのかもしれない。今度は「雨の沈む町」と暮らし始めた。生活は相変わらず、変わらない気もする。


そして慣れない。

毎日いろいろと間違ってはいけない事ばかりで胃が痛い。

大き目の溜息を一息ついて、「ふああああ~あ」


町に着いた頃の晴れ間が消えてから、空は毎日曇っている。

ざあざあ激しく降る日はないが、毎日毎日ポツポツ、ポツポツと降っている。

このままだと本当に雨に沈んでしまいそうだ。



最近は大家の息子が僕の相手をしてくれる。

家具屋や電気屋に案内してくれた。


この町にある物は僕が育った町にある物とそうは変わらない。

漫画もあるし、ゲーム機もある。

何でもかんでも、晴れた日になると貨物の列車や船で運ばれてくるらしい。

でも道路は繋がっていないので、トラック輸送はない。

だから新鮮な物、旬な物は運ばれてこない。

週刊誌がない。新聞は地元で出版されているものしかない。


「こんな町もあるんだね」

と、揮宇は何気なく大家の息子に言うと、


「これが普通だから、なんとも言えんがねえ」

と、大家の息子は答えた。

さらに、

「おまえはまだ現実にある情報と学校で教えてもらった情報しか知らないだろう?

 だからこの町が不思議なんだ。

 日本地図を見るとこの町は森の中だよ。

 驚くかもしれないけど、これが事実だ。

 この世には世間を偽るたくさんの嘘が作られている。

 今はわからないだろうけど、この町がそういう町だという事だな」


秋の森から出てきた揮宇にとっては、事実も嘘もどうでもいいように思えた。あの森にしたら、ここは遥かに現実的だ。見ず知らずの人がたくさんいて、勝手な事を勝手に話している。質問すれば答えが返ってくる。だからこの町は紛れもなく現実だ。どこのどんな町であろうと揮宇には関係なく感じられる。


揮宇は今、新しい生活の中に迎えられている。


もう家からは出た。父親も母親もいない。


少なくとも自立しないといけない。


一人暮らしをしていかないといけないんだ。