秋の森 14.男と女 | 小説と未来

秋の森 14.男と女

そしてわたしはより揮宇(きう)を求めるようになった。

秋の森には飽きてしまったのかもしれない。揮宇の瞳を見つめる事が好きだ。

わたしは揮宇にドキドキしていた。いつも一緒にいるのに、こんなに傍にいるのに。

でも、求めてしまったら、この生活はきっと終ってしまう。

このままでよくはない。揮宇の柔らかい雰囲気が好きだ。

抱きしめたい。そして抱きしめてほしい。

きっと、揮宇はそんなわたしの気持ちに気づいてくれてはいないんじゃないかな?


そう、果実(かみ)は思う。



君の香りが鼻孔をくすぐる。変に欲してしまう。

こんな気持ちは初めてだ。こんな風に女の子を女の子として感じた事は今まで一度もなかった。

僕はどうしていいかわからない。

こんなふうに僕の中に欲望があるとは知らなかった。

君が欲しい。君に触れたい。今、この夢のような現実で、果実をしっかり感じている。


揮宇もまたそう思っている。



今となっては一人になってしまった高西だって、本当は眠ってはいなかった。

本当は果実を抱きたいと思っていた。

もう年齢的には合っていないけど、とても悲しいけど、望みはそこにあった。

揮宇と果実にとって自分が邪魔な存在である事はしっかり気づいていたんだ。

それでも出逢いの瞬間に、奪えるならその可能性がないか、探っていたんだ。

揮宇と果実が去っていった。

こんな悲しい目に合わせれて、もう二人には会いたくないと感じている。

本当に恋愛もできない人間になってしまう前に自分に合った女性に出逢いたい。

「きっとこの森のどこかにいるはずさ」

高西はそう自分に言い聞かせて、新しい一人きりの生活を始める。



秋の森は個々の空間を作ってゆく。葉に隠された森のあちこちで様々な人が暮らしている。

誰もが何かを目指し、生きている。自分の中にある飽くなき探究心を満たそうとしている。

秋の森は何も言わない。ずっと葉を散らせるばかりだ。



揮宇は果実の傍にいる。

二人の生活がまた数日過ぎた。

眠ってばかりの二人は、前よりずっと愛し合う気持ちが育っていた。

欲する気持ちに触れないように、二人は他愛ない話をしていたけど、

気持ちは少しずつ現れてしまう。


「子供なんてできなければいいのに。

 どうして人は恋をし、愛し合い、子ができるのだろう。

 子供は別のところから生まれてきて、男と女の愛には関係なければいいのに。

 そうしたら、僕はこの森で性を考える必要はないのに。

 子供作るって何だろう?愛し合うって何だろう?」


揮宇は果実に触れたい気持ちに誘われる。揮宇は男を捨てられない。


「愛されたくて、愛したくて、女と男がいる。抱き合いたいよね。

 ずっと感じてしまう。触れてはいけない。

 でもわたしもずっと感じているよ。ずっと欲しいと思っている。

 忘れたいけど、忘れられない」


果実は心の声で話していた。

落ち葉に寝転がる二人は手を伸ばせば触れ合える位置にいる。

互いは互いを感じ合っている。


とても温まっていた。互いの中の熱が生まれていた。


「人って何だろう?何のために生まれてくるんだろう?

 わたしはどこから生まれてきた?

 愛されあった中から生まれてきたはず。

 その愛に生まれた子供。

 本当は知らない。愛されていなかったのかな?

 わたしは愛したいのかな?私も子供を愛したいのかな?」


「君と僕の子供について考える。

 愛しき人、君の子を思えば、きっと嬉しいだろう」


「そう、揮宇の子はきっととても愛せるよ」


揮宇は立ち上がった。


「どうしたの?」


「ちょっとね」


用を足すように、揮宇は立ち上がり、木の囲まれた陰に葉っぱを踏みながら遠ざかってゆく。


揮宇は木陰に隠れて、抑えられない性への思いを消化する。

「何をやっているんだ」と思う。揮宇は果実の女性らしい肉体が欲しくて仕方ない。

果実の裸が見たくてしょうがない。傍にいるとその気持ちが増してゆく。



一人になった果実は心の内にある想いと話し合っていた。


わたしは子を産み、育てるために生まれてきたのかもしれない。

好きな人に出逢い、愛し合い、その子を産む。

あなたと二人でいる事も幸せだけど、わたしはその先を求めてしまう。

当り前の幸せが今のままだと壊れてしまう。


死んでしまってもいいでしょう。

わたしに生きる意味がないのなら。

わたしはあなたと愛し合いたい。


秋の森には風が吹いていた。少しずつ夜の闇が迫っていた。

葉葉は彩を失い、影を強めていた。木々も眠りに付こうとしてる。