秋の森 12.温泉の話
変な人に会った。
「あなたは誰ですか?」
と、揮宇(きう)が尋ねる。
「やあ、僕、高西」
と、高西は答えた。
続く一日の始まりだ。
ピッチョン、ポッチャン、雨が降る。ガマガエルも現れるかな?
いいえ、森には人と木しかいません。
秋の森には他の動物はいません。人に与えられた世界です。
獣はいない。生きるのは人と木のみ。
「温泉を探していたんだ」
と、高西は言った。
「温泉がある。体の疲れは取れるし、心は安らぐ。一緒に温泉へ行かないか?」
「でも、僕は疲れてもいないし、特に気分が悪いとかいう事もありません」
と、揮宇は答える。
事実、揮宇は果実(かみ)との生活に満たされている。
「まあ、いいから一緒においで」
果実は少し離れた所からおとなしく二人の会話を聞いていた。
「ねえ、一緒に行こうよ!」
と、高西は果実に尋ねた。
果実はこくりと頷いた。
だから揮宇も頷いた。
温泉探しの旅ぃ~は三日続いた。
高西テンション高いし、付いてゆけない。
小枝を振り回し、訳のわからないハイキングソングを歌う。
30過ぎのおっさんである。
高西笑顔、揮宇、苦々しく笑い、つまり苦笑いぃ~なり~。
そして、温泉に着いた。
これ、混浴ぅ~、なんて期待する、揮宇ぅ~。
元気ぃ~になっています。湯気が立ち込めている。
まずは手をちょっと。
「あったけえ~」と、揮宇。
「最高だね」と、果実が微笑んだ。
「最高よお」と、高西が言う。
適温に、土の中から湧き出ている。
揮宇たちはいつも水を大切に、川の傍で暮らしていた。
長い長い、果実と揮宇の暮らしだった。きっと3ヶ月は暮らしていただろう。
森にはたくさんの湧き水があった。だから時々二人は移動した。
水のある傍に、移動しながら二人は暮らしていた。
でも温かいお湯が出るのは始めてみた。
湧き上がる温水は岩肌を流れ、ちょうど岩に囲まれた場所に流れ込んでいた。
でもたくさんの葉に埋まっていて、そこに溜まっているお湯は見られない。
でもお湯はそこに溜まっている。落ち葉に浸透している。
高西は落ち葉をかき分け、そこにスペースを作る。
「さあさあ、ではまず我から」
と、高西は言う。
いきなり裸になって、果実は逃げて、高西は一人お風呂に入り込んだ。
「ああ、いいなああ」
揮宇はただ待っている。
やがて高西上がって、揮宇が入る。
ものすごく久々に、裸になった。森のルールで体は汚れないから、ホントは体を洗う必要なんてないんだけど、体を温めたいから、お風呂に入った。
「あったけえええ」
久しぶりの自分の裸、でもどこも変化は見られない。ちんちんだってちゃんと付いている。
肌寒かった体がきゅっと温まる。
果実は少し離れた場所で、静かな時を送る。
昔と変わらない一人の時間で一人夢を見て待っている。
高西は葉に包まり、くるくるして濡れた肌を乾かす。
それから服を着る。
揮宇も温まったので、同じように、落ち葉でクルクルして、体を拭いた。
そして服を着て、果実の元へ。
「すっごく安らぐよ。入ればいい」
「うん」
そして果実もお風呂へ。
服を脱いで、ゆるりゆるりとお湯の中へ、ゆったりのんびりの時間を過ごす。
満足だった。
そして果実もお風呂から出て、葉っぱでくるりくるりと包み込んだ。
服を着る。
体はポッカポッカだ。
どこかにあったもやもやも吹き飛んだ。
「な、いいだろう?」
と高西は二人に尋ね、
二人は首を縦に何度も振った。
なぞのおっさん高西は怪しかったけど、意外といい人だった。