秋の森 特別篇8.5 揮宇の声 | 小説と未来

秋の森 特別篇8.5 揮宇の声


叫び続ける声は届くだろうか?


誰もが誰かを呼んでいる。



昔よりも時代は遥かに孤を深めたんじゃないかな?


家族があって、大部屋に皆でいる。


邪魔に思う事がたくさんあるけど、誰かといる空間には温もりがあった昔。


いつのまにか個人の部屋ができて、個々に暮らすようになった。


さらには家を出て、小さな六畳一間の部屋に多くの人が暮らすようになった。


隣にどんな人が住んでいるかも知らない。


大きな声で叫んだら、頭のおかしい奴だと思われるだろう。



こんな森の中で、僕らは声を発し続けている。


誰かに自分の存在を知ってほしいと、願いを込めて声を発する。


この世に生まれ、いつかこの世から消えてゆく。


勝手に生まれて、勝手に死ぬのは悲しすぎはしないだろうか。



誰かが心配してくれて、誰かを失う事を恐れて、誰かと共に過ごして、生きる時間を共有したくはないだろうか?


僕は君の寂しさも汲み取りたい。


そして僕の寂しさも満たしてほしい。


好きも嫌いもあるけれど、とにかく君を感じたい。


好きも嫌いもあるだろうけど、とにかく僕を感じてほしい。



ただ呼び続ける声がこだまする。


森の中に鳴り響く。


君も叫んでいるだろうか?


それともひっそりとして僕の存在に気づこうと耳を澄ましてくれているのかな?



僕は誰かに出逢える日を楽しみに待ち望んでいる。


だから叫ぶ声を止められない。


楽しみで楽しみで止められない。


右に叫び、左に叫ぶ。


より大きな声で、遠くに届くように。


よりたくさんの声で、君がこの声を聞き逃さないように。


いつか出逢えるその日まで、来る日も来る日も叫び続ける。



君の声が聞こえないか、時に僕は耳を澄ます。


遠くの声も聞き逃したくはない。


右へ左へ駆け回り、どこかにいる誰かを探している。



いったいどれだけ叫び続けた事だろう?


森で声は嗄れない。


きっと空気がいいからだろう。


僕はいつまでも叫び続けられる。


答えが出る日まで、叫び続けられる。


信じている。


答えは出るって信じているよ。



叫び声は脈動し始めた。


誰かと出逢う事を待ち望み、それが楽しみに変わっていった。


何もない所から楽しみは始まるんだ。


何かが足りなくて、足りないものを埋めようとする思いから楽しみは始まるんだ。


いろいろな想像が頭の中を駆け巡る。


どんな人に出逢えるか、その想像が頭の中を楽しませてくれる。



想像に等しい物は何もない。


空想を与えてくれるゲームも漫画も本もない。


だから自分で想像し、組み立てていく。


そうなりたいと想像し、その方向を目指して進んでゆく。


きっとこの先にある何かを信じて走ってゆく。


声を上げて、走り回れば、自ずとハイテンションになってゆく。


きっとこれでいいんだ。



走り回れ、どこまでも。


走り回れ、疲れ切るまで。


僕は望み叶えたいと、その思いに馳せている。


何もないなんて信じない。


必ずこの願いを叶えてみせる。


だから君もそう願っていてほしい。


僕に出逢うその日まで。


きっと君に出逢ってみせるさ。


届け、僕の声。