秋の森 8.森の未知なる部分 | 小説と未来

秋の森 8.森の未知なる部分

さらりさらりと舞う葉の森へと迷い込み、日はまだ続く。


紅葉に銀杏、楓などの葉が散り続く。散り果てることなく、森には葉が降り続く。


さらりさらりと葉は音を奏で続ける。



それでも慣れた日々の新しい朝には、虚しい気持ちが生まれる。


揮宇(きう)は慣れた一日を開始する。



最近は木登りの練習をする。退屈な時間潰しには何かに熱中すると良い。

ゲームに嵌まるのとおんなじように。


疲れた時は葉に包まり休息を取る。

深い落ち葉の中でぐったりしてる。


リズムは出来てきていた。自然に毎日を送っている。



さらには少しずつ、森の未知なる部分へと足を踏み入れてゆく事もあった。


誰かに逢う事はなかった。揮宇が会うのは未だ仙人だけだ。


少しずつ進んでは、戻って、進んでは、戻った。



でもある日、戻った場所に仙人はいなくなっていった。

正しくは戻る場所を間違えた。その瞬間、揮宇は迷子になった。もう仙人の居所もわからない。


孤独が深まる。不安を感じる。

『誰かに触れたい』

と、揮宇は涙を流しそうな想いで心を震わせた。

触れられる存在が欲しくなった。


揮宇は木に触れた。

大きな木のパワーを感じた。

揮宇の目から涙が流れそうになった。でも涙は流れなかった。

ただ泣いた。声を出して、揮宇は寂しいと泣いた。

体が小さく震えた。


 生きる意味はまだあるのかな?


人々の住む世界なら、生きる理由を考えなくても、やる事があったから、考えたくても何かに満足し、何かに苛立ち、何かをする毎日が続けられた。


秋の森では誰の声もなく、やる事も特別ない。

森に迷い込んだ多くの人は何かを求めて何処かへ行こうとする。

森は安全でどこにも行く必要はないのに、多くの人がなぜ何かを求めて何処かへ行こうとするのか、揮宇は理解し始めていた。



生きるという事、何かをしたいと思う事、


その本能が人としての内から溢れ出そうとしている。


だからどこかへ行くのか。でも、、、、望まない。



「おーい!」

揮宇は大きな声で叫んでみた。この声が誰かに届かないかと、叫んでいた。

仙人でも、始めの人でもよかった。ただ、誰かと繋がり合いたかった。


揮宇はそれからずっと叫び続けた。

時は過ぎ、疲れが来るまで叫んだ。

日が暮れて、眠りに落ちるまで叫び続けた。


毎日、毎日、叫ぶ日々は続いた。

どれだけの声が出るのかを試しているように、声は日に日に大きくなっていった。


何処かへ行きたいなどという思いはない。ただ、誰かに逢いたかった。理由はそれだけだ。


声を絞り、おーい!と叫ぶ。秋の森にその声はこだまする。

でもその声は虚しく響き続けるだけだった。

誰にもその声は届かなかった。