秋の森 2.始まりの人
本当の始まり。
「どうしたらいいんですか?」
と、青年は始めの人に尋ねる。
「君は自由にすればいい?」
と、始めの人は答える。
「何もしなくても生きていける。お腹が減ったら森のキノコを採って食べればいい。
ただこの世界では火が使えない。そんな事をしたら全てが燃えてしまうからね。
調理はしなくてもキノコは美味しい。
ただ特別な味ではないから、厭きてしまうかもしれないけれどね。
毒のある物はないから大丈夫だよ。
生を脅(おびや)かすものはこの森から排除されるんだ。
この森では自然な生が与えられる。
それがこの森のルールなのさ。
生を奪うもの、生を生み出そうとするものはこの世界から排除される。
その事を知っておくといい」
青年は現状をまだ何も飲み込めていない。
森の中にいたら、突然現れたユニセックスな人。
そして木々が深まり落ち葉が増えた。地は葉っぱの集落で埋め尽くされている。
辺りを見回しても、青年はどこからやってきたかわからない。
近くに林道があったはずなのに、今はその道も見られない。
「ここはどこなんですか?」
と、青年は尋ねる。
「君は迷い入り込んだんだ」
と、始めの人は言う。
「秋の森は悩み苦しても見つからない。ふと迷い込んだら現れる桃源郷。
その迷いは物理的迷いだけじゃない。心の迷いも含んでいる。
わたしの知る限りはそれだけ。
ここがどこかと聞かれれば、ここは秋の森だと答えるだけ。
わたしも君と同じく迷い込んだだけだから」
「あなたはここに独りで住んでいるのですか?
他に誰かいないのですか?」
と、青年は尋ねる。
「いるよ。でもどこにいるかはわからない」
と、始めの人は答える。
「みんな同じ場所にいることには落ち着かなくなってしまうからどこかへ行ってしまう。
ある者は天を目指して木に登り、ある者は森の出口を探して旅に出た。
だからここに残るのはわたしだけ。
近くを探せば、仙人に出会えるかもしれない。
仙人はこの森に長く住む人だ。この近くにその人も住んでいる」
「仙人?」
「本当の仙人じゃないよ。その人もただの人だ。ただ年老いている。
長い間、この森にいたのだろう。とてもたくさんの事を知っている。
わたしも仙人に時々会う。仙人はこの辺りをウロウロしている。
小さな木の位置の違いで自分の居場所がわかる、この森で唯一位置を知る人だ。
仙人がどれだけの時間を過ごしてきたのかはわからないよ。
ここでは正確な時間はわからないから、いったいどれだけの時が過ぎたか忘れてしまう。
朝と夜はあるから数える事はできる。でも一ヶ月も数えれば数える事が面倒になるだろう。
そうやってここに住む者はみな時間を忘れてゆくのさ」
「はああああああ」
と、青年は溜息をついた。
夢とも思えない現実の中で、青年は一生この森で暮らしてゆく事になるのだと感じていた。
「君のその気持ちはよくわかるよ。
でもここはもっと単純な世界なんだ。
求める方向に素直な気持ちになれば十分世界を楽しむ事ができるはずだからね。
まずは仙人を探すといい。わたしにはわからない事も仙人は知っている。」
「この森に出口はないの?」
と、青年は尋ねる。
「正確に、出口と呼べるものはない。入口がなかったのと同じようにね。
でも、出る方法はあるよ」
「それは?」
「方法は二つあると言われる」
と、始めの人は話し出す。
「一つは殺人を犯すこと。もう一つは、恋をして性行為に至る事だ。
この世界では、生を消す事と、生を生み出す事が禁止されている。
だからそのどちらかを行えば、君はこの世から排除される。
その後どこに行くかはわからないけれど、秋の森が嫌になったらそうやって出てゆけばいい」
「性行為ですか?」
と、童貞の青年は自信なく呟く。
「心配しなくてもいい。
そうやって出て行った人間が一番多いっていうのも秋の森の事実さ。
でも森に住み続けるうちに何がしたいかは変わってくるものさ。
出る事だけを考えるのが得策でもないという事だよ。
わたしもそうやって長い時間をここで過ごしてきた。
今はここの外に出たいとは思わなくなってしまったのさ」
と、始めの人は青年に伝えて、輝かしい瞳で、木の葉吹き巻く空を眺めていた。
木漏れ日が鮮やかに空を染める。
風が吹けば空を赤黄緑がカラフルに舞っている。
動く光景は幻想的光景だ。
カメラもないから写真に撮れないけれど
この光景を見せれば誰もがどこかと尋ねて行ってみたいと望むだろう。
迷いの森に悩む青年誰かが出口に導いてくれるのかな?
それとも森での暮らしを好み続けて仙人となるのかな?