秋の森 1.主人公について | 小説と未来

秋の森 1.主人公について



森に来たのはなぜだろう?


子供の頃に遊んだ事を思い出していたのかもしれない。

少年の頃はよくその森で遊んでいた。探検ごっこや冒険ごっこをやったものだ。


主人公の青年は一人で森までやってきた。

家から歩いて10分ほどの所にある森だ。


ここはそれほどの田舎町ではない。

山は近いが町もある。都会ではないが、不便な田舎町というほど田舎ではない。

森はさほど深くはない。歩きぬければどこかの道に出るくらいの森だ。


主人公はその森がある町に住んでいる。

年齢は19歳、高校を卒業して、

進学もできず、かといって就職する気もなく、ただダラダラとした生活を送っている。



森には何をしに来たのだろう?


暇だった。といえば一番適当だね。彼は暇なのだ。

親は仕事を探せと言う。

何しろ勉強は大してできない。親だって金があるわけじゃない。

ただ大学に入れるくらいなら、働かせた方がましだと思っている。


たとえば専門学校へ行かせるという手もある。

いつも漫画を読んで、ゲームをやっているだけの青年には何の能力もない。

ずるずると仕事が見つからずに一年二年と無駄な時間を送るくらいなら、何か職になるための技術を身に付けた方がいい。という考えもある。



でも青年は何もかもが違うと思っている。

何もかもが違う。



迷い込んだ秋の森に、僕は君を招待しよう。

考えられる可能性はまだたくさんあるのだから。


全てを忘れなさい。

仕事とか生活とか、死ぬなんて考えちゃいけないよ。

何も考えていないわけじゃない事も知っている。

世界はとても広い。

でも想像だけではわからない事もたくさんある。

頭の中で考える事なんてそんなに大切な事ではないよ。

世界に触れてごらん。

どこまでも世界は広いものだから。


君は恋をしていたね。

それもまた下手な恋心だったね。

性の欲求を抑えられないままに君の気持ちは伝えられなかった。

男とか女とかも忘れてしまえばいい。

人として、生命体として、生きる事を考えてみなさい。


存在の意味を新たなる域に置きたいのなら、秋の森へと君を連れ去ろう。



森は、秋だった。

ずっと秋のまま、風がふゅるりと吹いて、天を楓の葉がうず巻き、散っていた。

青年はその空をずっと見上げていた。楓の葉は天より舞い降り、彼の体をうずめていった。

どこまでも続く楓の葉吹雪に青年は行き場を失った。

金縛りにあったかのように体は動かず、赤き葉の光景が目の前で続いた。


カサカサ、サラサラと秋は続く。

赤く、黄色く、色は鮮やかなる彩りを繋いだ。

青年は天を見上げ、その空に目を奪われていた。



始まりの人の前に青年は降り立った。


「わたしと同じく、舞い降る落ち葉に包まれて、

 自分の場所を忘れて、

 君もこの森へと迷い込んだのだね」


青年の前には一人のユニセックスな人がいた。男といえる女、女といえる男、どちらでもない平等的な雰囲気を持った人だ。

その人は男とか女とかは忘れてしまった。


「男とか女とかは忘れなさい。

 ここで暮らすにはその必要があるのだから」


青年は始まりの人がいう言葉に何も言い返せない。


「死よりは生について考えなさい。生命の始まりから終わりまで。


 始まりは知らなかったでしょう。終わりもまだ知らない。


 わたしは生きてきた。そして生きている。生を保持し、そのための行動を取る。


 余裕はある。余裕の分だけ、楽をして、暇を潰して遊んでいる。


 秋の森では生命が保持され、一生の余裕が与えられる。


 ただわたしは性を忘れて、生命を後世に継ぐことができない。


 迷い込んだものだけが与えられる一生の生命。わたしはここで日々を送る事を決めたのです」


青年は秋の森に迷い込んだ。それが全ての始まりとなる。

青年はまだこれが始まりにしかすぎない事を何も気づいていない。