29. 馬込警部補に起こった出来事
「馬込くん、ちょっといいかな?」
人の良さそうな班長の市谷(いちがや)は馬込の座る席の側まで来て、馬込の肩をポンと叩き、声を掛けてきた。
今回の話は、馬込警部補の話である。
馬込警部補とは、日暮里スーパー爆破事件を追っている警官だ。上野響とは何度か対面している。日暮里スーパー爆破事件を追って、まさに目を付けた馬込と、まさの仕事を引き継いだ響は何度か遭遇していた。それでも馬込は事件の手がかりを何も掴めないまま、テンションの落ちる毎日を送っていた。
ここは馬込警部補の職場、警視庁生活安全課未然処理特殊捜査班の事務所である。
事務所は半蔵門の付近にあるビルの二階にある。見た目はどこかの人材派遣センターみたいなつくりをしていて、とても警察関係の職場には見えない。ここの職場はお悩み相談所のようになっている。これは、悩みある若者の話を聞き、大きな事件に進展させないようにしようとしている場所となってるためである。なので表目は警察に関係のない法人のような看板を立てている。が、実は管轄は警視庁になっている。
メンバーは全員で9名。
班長=市谷 初(いちがや はじめ)
副長=本町 太志(もとまち ふとし)
メンバー(在籍期間順)に、
有馬 裕也(ありま ゆうや)=通称 夢見警部
小倉 五郎(おぐら ごろう)=通称 調べ屋おぐさん
秋野 こまき(あきの こまき)=こまきちゃん 事務担当
飯尾 久雄(いいお ひさお)=通称 なまけ
小野 作人(おの さくと)=おのっち
入谷 瑞江(いりや みずえ)=みずりん 事務担当
馬込 純平(まごめ じゅんぺい)=まご
以上のメンバーである。
この部署の主な役割は、『犯罪に発展しそうな出来事をいち早く発見し、事件に繋がらないようにする』というところにある。
1995年の発足当初は特殊な能力を持ったメンバーが募ったが、その後いくつかの事件で殉職者などが出るなどの問題もあり、また事件が起こる前に事件を解決してしまうというわかりにくい観点から、メンバーは徐々にどちらかというと問題児といった感じの警官が一時的に入れられる場所となっていった。今は大した機能を果たしておらず、宣伝もしていないため、ほとんど人も訪れる事はない。人気のない探偵事務所のようになっている。
馬込警部補も問題児として異動にあった人物の一人である。が、本人はその事を理解していない。
そんな部署で、早2年、何の命令も受けないままに、馬込は身勝手な日々(勝手に日暮里スーパー爆破事件を捜査する日々)を送っていた。権限はないが、自由に何でもできるいい部署ではあった。
「何でしょう?」
話は最初に戻る。
班長である市谷が馬込を呼ぶことはめったにない。なので馬込にはなぜ自分が呼ばれたのか全く理解できなかった。
市谷は来客用の小さな小部屋に馬込を呼んで、ドアを閉めてから話を始めた。
市谷:「実はね。君は今日で、この部署を異動してもらいたい」
馬込:「本当ですかヾ(@°▽°@)ノ」
市谷:「ああ、本当さ。それでね、今度は公安に行ってもらいたいんだ」
馬込:「本当ですか?公安といえば、一級事件を捜査する、あの(°∀°)b 」
市谷:「それで、君には、資料整理をしてもらう話が入っている」
馬込:「…。え、資料整理( ´(ェ)`)」
市谷:「なあに、この部署から思えば大きな仕事だよ。いろいろな事件の極秘情報を整理するんだ。
そこからいろいろな知識を得て、上に上がることだってできる。今は我慢だよ」
馬込:「すみませんが、その話、少し考えさせてください。僕は出世なんかより、動き回って捜査を
したいんです。そうでないのなら、ここにいます」
市谷:「でもね。そういうわけにもいかないんだよ。これは上層部からの命令でね。
きっと馬込君も上に買われたんだと思うよ。こんな部署にいつまでもいたってしょうがない。
僕が言うのもなんだけど、この部署は昔と違って、追いやられてやってくる部署なんだよ。
君はもうその必要がないと、上が判断したのさ。次をしっかりやれば、さらに望む部署へと
移っていけるさ」
馬込:「すみませんが、今、とても重要な局面を迎えているんです。もう少しで、真犯人の顔が
見えてきそうなんです。ここまで来まして、この問題を逃す事はできません」
市谷:「それは、つまり、日暮里スーパー爆破事件に関する事だね?」
馬込:「そうです」
市谷:「僕は、馬込君がその事件に関わる事を反対してはこなかったが、周りからは手を引くように
言われていたよ。その事はもう手を引いたほうがいいんじゃないのか?
あの事件を追っている警官は他にもいる。君がこれ以上関わらなくてもいいじゃないか」
馬込:「市谷さん、前にも言ったように、僕はあの事件に賭けているんです。
僕にとっては人生の一大テーマなんです。それを外すわけにはいきません」
市谷:「君のその情熱はいい。
けどね、時と場合によっては引かなくてはならない時もあるんじゃないのかな」
馬込:「それが、今だというんですか?」
市谷:こくりと頷き、「僕はね、君をある人と一緒にしたくはないんだ」と言う。
馬込:「…」
市谷:「かつて、とても情熱的な人物が、未処(みしょ=未然処理特殊捜査班の略名)にいた。
その人はとても優秀だったけど、負けん気が強すぎた。僕の尊敬する先輩の一人でもあった。
もしあの人がいたら、この部署の班長は彼となり、彼の手によってもっと立派な部署に
なっていたと思う。でも彼は辞めてしまった。警察官をね。
彼も君と同じ、この部署を異動になる事に不満を持ち、それで辞めてしまった。
彼はずっと麻薬に関する捜査をしていたんだ。僕も詳しくは知らない。
だけど、その事件を途中で放り出せずに、そういう形になってしまった。
今は何しているかわからないけど、とてももったいない事をした。
だから君にはそうなってほしくないんだ。もう一度、冷静に判断して欲しい」
馬込:「市谷さん、気持ちは嬉しいですが、僕は何となく納得いきません。もう一度だけ、
市谷さんこそ、考え直してください。僕は今、事件の真相に迫ろうとしているんですよ」
市谷:「わかったよ。できる限りの事はやってみるよ」
しかし、1週間も経たないうちに、馬込は別部署に異動となった。異例の早さの出来事だった。市谷の言うように、馬込は公安の資料処理室に入れられた。そしてそこで来る日も来る日も資料の整理を行う事となった。神経質な先輩の下で、あれこれ怒られながら、毎日が過ぎていった。
休みさえ与えられず、日暮里事件の捜査も、響に会う暇さえないまま、毎日は流れてしまっていた。馬込警部補のテンションはどこまでも落ちる一方だった。
30話へ続く。