21. 意外な場所で | 小説と未来

21. 意外な場所で

 雷鳴の轟(とどろ)く夜だった。響は一杯飲みに行こうかと考えていた。

 でもあまりの土砂降りに諦(あきら)めて、何もしない時間を家で過ごすこととした。


 22時過ぎに雨は止んだ。

 転寝(うたたね)していた響は眠い目を擦(こす)り、目を覚ました。

 外に出てみると、熱気に包まれていた空気は爽(さわ)やかな空気に変わっていた。雨が止み、雨宿りから動き出した人々が多く見受けられた。響はマンションの外でそんな光景を目にしていた。

 そんな中、一人だけ周りと違う行動を取っている人影があった。彼は雨が止んだ事にも気づかずに傘を被ったまま、マンション脇の花壇に腰掛けていた。


「何してんの?」と響は声を掛けてあげた。

 馬込は傘を横にずらして、上から覗く響の顔を見上げ返した。

「あ、あああ(°д°;)」と間抜けな声を上げた。


 響はなぜだか馬込警部補を『ふくちゃん』の店に連れて行ってみようと考え、そうした。



 今回のストーリーは馬込+居酒屋『ふくちゃん』という不思議な組合せである。


 馬込警部補に声をかけ、馬込警部補を『ふくちゃん』の店に連れてくる事は安易な行動だった。『ふくちゃん』は、まさがよく通っていた居酒屋であり、自分もよく通う居酒屋である。馬込警部補という刑事を連れて行くのは面倒な事になり得る行為であった。でも響はそうしてみた。


 『ふくちゃん』の店は不定期に日・月・火が閉まっている事があるが、その日は開いていた。

 店の中は本当に閑散(かんさん)としていて、歌い人が端にいるだけだった。しかも歌も歌わず、珍しく酎ハイを飲んでいるようだった。

 響はその店がまさや自分と関係がある事を馬込に伝えてはいなかった。店に入ると女将のふくちゃんも不思議な空気を感じ、いつも座るカウンターでなく、端っこの座敷席を勧めた。歌い人はちらっとこちらを見て、また自分一人の世界へと帰っていった。


馬込:「やっと会えましたねえ」


響 :「で、まだ何か用があるんですか?」


馬込:「…、いやそれが特に」


響 :「じゃあ、家のマンションの前、うろちょろしないでくださいよ」


馬込:「まあ、なんというか、他に思いつくところなく、中本さん(響の偽名)にもう一度お会いしたいなあと」


 ふくちゃんがやってきて、注文を訊ねた。

 響はビールを頼んだ。馬込もオフという事でビールを頼んだ。


響 :「何か、進展しました?」


馬込:「さあ、世の中では、刃物事件だのなんだのでして、

    わたしの求めている事件(日暮里スーパー爆破事件)には興味がおありにないようで。

    (警視庁)本部も本部でして、世間に流され、刃物ばかり追いかけているようで。

    バカですよね。あわよくば、棚から牡丹餅(たなからぼたもち)的に刃物犯が、

    爆破犯に繋がらないかとかと考えている奴もいるんですよ。やり方がくだらない」


 ふくちゃんが生ジョッキを持ってくる。

 響が口をつけると、馬込はそいつをグビグビと飲み込んだ。


馬込:「ぷはああ、うまいですねええ」


 そこからはしばらく世間の犯罪話に移った。

 響は特に興味のないニュース番組のように馬込の話を聞き流した。酒も進むと馬込の話はより長くなった。より長く、より愚痴っぽかった。でも響はかんさんやとっちゃんにその系統の話は嫌なほど聞かされているので聞き慣れていた。


馬込の話;

「結局何をしているのか、わたしもわからないんですよ。何をしたらいいんですかねえ。

わたしが追っている月島雅弘(まさ)さんは亡くなってしまいましたし、

彼と関係のある人物も特に見つからない。

過去のデータを拾い集めても膨大なゴミしか見えてこない。

いったいどこに答えがあるのか、わたしにはわからない。

いやあ、最近思うのですがね、わたしは実に才能がないなあと思うんですよ。

今日もあなたに声をかけられるまで、わたしはあなたに気づかなかった。

ただあそこに行く事が日課になっていたんですよ。

7年間、わたしは同じ事件を追いかけてきました。それも同じです。

わたしはただの事件を追うことが日課になっているだけなんです。

警部補になるまでは、わたしは才能のある人間だと信じていました。

キャリアへの道を挫折無く進んできました。

だからわたしは少なからず自分を自負(じふ)しているんです。

叶えたい夢を叶えて、わたしは少なからず道に悩む一般人に比べて、遥かに違う、

選ばれた道を迷うことなく進んできたんです。

でも今では情けなくてしかたないですよ。最初の事件を7年も追いかけているんです。

未だ解決できずに。わたしが憧(あこが)れる古畑任三郎なら、もうとっくに解決してますよ」


「あれはドラマだからね」と、響は口を挟む。


馬込の話の続き;

「それはそうであっても、7年ですよ7年間、わたしは一つの業績も残していない。

いくつも追いかけてはいくつも埋もれた、たくさんの行き止まりにあってばかりで、

どこにも結果が出ないまま、7年間を過ごしてきたんです。

わたしは自分の中でまとめたノートを何度も何度も読み直し、

たくさんの線を引っ張って、事件の結論に至ろうと試(こころ)みました。

でも結局7年間同じでした。

その間に、同僚は小さな事件でもいくつか解決したり、犯人をしょっ引いたり、出世したり、

そうでなくても結婚し家庭を築いたりしている。

わたしはこの7年間、何も解決しないまま、周りから邪魔にされて仕事をしてきました。

周りが変化してゆくなか、わたしは何一つ変わらない今を続けています。

情けない。

だけど、だけどねえ、わたしは周りの奴と違う。わたしにはきっと才能がある。

そう信じて、ずっと事件(日暮里スーパー爆破事件)を解決しようと追いかけてきたんです。

周りの奴らにバカにされながら、

生活安全課未然処理特殊捜査班という名目ばかりの窓際部署に送られながらも

事件を追いかけてきました。結局、わたしは何もできていない」


 馬込はずっと俯(うつむ)いて話していたが、顔を上げて響のつまらなそうな顔をちら見した。


馬込:「いやあ、またくだらない話をしてしまいましたね。母親譲りで話が長く、父親譲りで酒癖が悪い

    ものでして、どうも申し訳ない。

    それでですね、わたしが今言える事を『あなたしかいない』という事なんですよ。

    わかります?言っていること」


響 :「さあね。あなたが望むのは結構ですが、俺に期待しても何も出てきませんよ


 響は数日前のかんさんの説教を思い出し、そう答えた。


馬込:「( ̄へ  ̄ 凸、そうですか。それしかないんですか」


 馬込は怒って、目の前に置かれたビールジョッキの残りを一気に飲み干した。


「今日はこれにておいとまさせていただきます。また今度、飲みましょう」

 そう言って、勘定を払い、外へと出て行った。長い話の後はあっけなかった。


 馬込はこの店が響とまさのなじみの店である事に全く勘付(かんづ)かないままに出て行ってしまった。それは響の思うとおりだった。彼はそういった勘が働かない。そういった人物だという事を響は見抜いていた。またその事を確信に変えた。


 店の中には誰もいなくなっていた。時間は深夜12時を回っていた。

 歌い人も知らず知らずのうちに姿を消していた。

 ふくちゃんが馬込について、聞いていた。


   響  :「警察さ」


ふくちゃん:「警察って、何?何か調べられているの?わたしは面倒事はゴメンだよ」


   響  :「いや、何か、日暮里スーパー爆破事件について調べているらしい


ふくちゃん:「そういえばそんな事件、昔あったねえ。だいぶ前だったけど。

        それが、何で?」


   響  :「さあ、どうやら、その事件とまささんが関係しているみたいなんだけどね」


ふくちゃん:「いやだねえ。あの人は常連だったけど、わたしはそれ以上の事は知らないよ」


   響  :「もし聞いてきたら、そう答えておけばいいんですよ」


ふくちゃん:「響ちゃんは大丈夫なの?彼と関わっているのはむしろあなただものねえ」


   響  :「僕も面倒事はゴメンなんで、中本龍平っていう偽名を使っていますんで


ふくちゃん:「わかったよ。大丈夫なんでしょ?」


   響  :「ああ、あの事件は僕がまささんに会う前だから、僕もその事は何も知らないんでね


ふくちゃん:「そうかい。あんたも賢いねえ」


   響  :「一杯、やり直させてもらってもいい?」


ふくちゃん:「(^-^)/どうぞ」


 響はその後、一杯飲んだ。そしてそれだけ飲み直して、居酒屋『ふくちゃん』を後にした。


22へ続く