昭和の作詞家(43)西沢爽ー前篇 | 昭和歌謡

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懐かしい昭和の歌謡スターの歌を紹介します。

◎ギターかかえて、あてもなく

 西沢爽(大正8年~昭和12年)も昭和を代表する作詞家の一人だ。東京深川の生まれ、旧豊山中学(現日大豊山高校)卒。昭和29年から日本コロムビアの専属として美空ひばり、島倉千代子、小林旭、舟木一夫らのヒット曲を多数作詞した。

 まずはひばりの歌から。

 「波止場だよお父つぁん」(昭和30年・船村徹作曲)〽古い錨が捨てられて ホラ 雨に泣いてる波止場だよ 年はとっても 盲でも むかし鳴らしたマドロスさんにゃ 海は海は 海は恋しい ねぇ お父つぁん

 「初恋マドロス」(35年・遠藤実)〽霧のむこうの 桟橋で やがて出船の ドラが鳴る 泣くだけお泣き 泣くだけお泣き

 ひばり得意のマドロスもの。1曲目はいい歌なのに放送禁止用語が含まれるため放送を敬遠されがちなのが残念だ。2曲目はひばりの長いセリフが入る。

 「ひばりの渡り鳥だよ」(36年・狛林正一)〽じれったいほど あの娘のことが 泣けてきやんす ちょいと三度笠 逢うに逢えぬと思うほど 逢いたさつのる 旅の空 ほんになんとしょ 渡り鳥だよ

 「花笠道中」と並ぶひばりの股旅ものの代表曲。3番の〽雪の佐渡から 青葉の江戸へ 恋を振り分け ちょいと旅合羽…のくだりが、いかにも道中ものの感じがあっていい。

 「ひばりの佐渡情話」(37年・船村徹)〽佐渡の荒磯の 岩かげに 咲くは鹿の子の 百合の花 花を摘み摘み なじょして泣いた 島の娘は なじょして泣いた 恋は…つらいと いうて泣いた

 同名の東映映画(河野寿一監督・天田俊明共演)の主題歌。佐渡情話は佐渡に伝わる民話で、島の漁師の娘と越後柏崎の船大工の悲恋物語。新潟出身の寿々木米若の浪曲で有名になった。歌も「情話」にふさわしいしみじみとした曲で、船村作品のなかでも名曲のひとつだ。節回しが難しく、ひばり以外の歌手にはなかなか上手く歌えない。まして素人には。

 次は小林旭の歌。

 「ギターを持った渡り鳥」(34年・狛林正一)〽赤い夕陽よ 燃えおちて 海を流れて どこへゆく ギターかかえて あてもなく 夜にまぎれて 消えてゆく 俺と似てるよ 赤い夕陽

 9本つくられたアキラの「渡り鳥」シリーズ第1作の主題歌。ギター抱えてあてもない旅をし、行く先々で悪を懲らしめるアキラのイメージはこの映画と歌で出来上がった。シリーズ全体のメーンテーマ曲ともいうべきだ。歌うと自分もさすらいのアキラになったような気分になるから不思議だ。

 「ダンチョネ節」(35年・遠藤実補作曲・狛林正一編曲)〽逢いはせなんだか 小島の鴎 可愛いあの娘の 泣き顔に いやだ やだやだ 別れちゃやだと

 「ズンドコ節」(同)〽街のみんながふりかえる 青い夜風もふりかえる 君と僕とを ふりかえる そんな気がする 恋の夜

 「鹿児島おはら節」(同)〽花は霧島 煙草は国分 燃えてあがるは オハラハー 桜島 おれの想いは煙草のようだョ 一度火がつきゃ身を焦がすョ

 この3曲はアキラのもう一つのシリーズ「流れ者」シリーズの主題歌。いずれも民謡や俗謡をアキラむけにアレンジした曲だが、アキラの高音によく合っていて編曲の妙と言える。「ズンドコ節」は後にドリフターズや氷川きよしがそれぞれのアレンジで歌っている。「おはら節」はあまりヒットしなかったが私は気に入っている。

 「さすらい」(35年・狛林正一補作曲)〽夜がまた来る 思い出つれて おれを泣かせに 足音もなく なにをいまさら つらくはないが 旅の灯りが 遠く遠くうるむよ

 「流れ者」シリーズは5本つくられたが、これはその中の「南海の狼火」の主題歌。映画の舞台は四国宇和島で、アキラが宇和島の港から船で去っていく最後のシーンでこの歌が流れる。もちろん岸壁に立って見送るのは浅丘ルリ子だ。     (黒頭巾)