昭和の作詞家(13)サトウハチロー童謡篇 | 昭和歌謡

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懐かしい昭和の歌謡スターの歌を紹介します。

◎小さい秋みつけた

 サトウハチローは童謡、唱歌の分野でも多くの名作を残している。

 「うれしをいひなまつり」(昭和11年・河村光陽作曲)〽あかりをつけましょ ぼんぼりに お花をあげましょ 桃の花 五人囃子の笛太鼓 今日は楽しい ひなまつり

 この歌の優れているのは季節感のあることだ。3番に「金のびょうぶに うつる灯を かすかにゆする 春の風」とあるように、この歌を聴くと春の宵の物憂い気分に包まれる。詞には二つの誤りが指摘されている。2番の「お内裏様」と「お雛様」はともに男雛と女雛をひっくるめた呼び方だがサトウは「お内裏様」を男雛「お雛様」は女雛の意味で使っている。また3番の「あかいお顔の右大臣」は「左大臣」が正解だ。お内裏様から見て右が右大臣で左が左大臣だが、向かって右を右大臣、左を左大臣としてしまった。

 でもそんなことはどうでもいい。我が家の雛人形は娘から孫娘に受け継がれているが、孫娘と一緒に雛壇を飾ってぼんぼりに灯をともし、この歌をオルゴールで聴きながら盃を傾けると、えもいわれぬいい気分だ。

 「もずが枯木で」(13年)〽もずが枯木で 鳴いている 俺らは藁を たたいてる 綿引き車は おばあさん コットン水車も まわってる

 サトウが10年に出した詩集「僕等の詩集」に収録されていた「百舌よ泣くな」に小学校教師の徳富繁が曲をつけた。1番は静かな農家の情景を描くが2番で兄さがいないことが分かり3番で兄さは戦争にとられ満州にいっていることが明らかになる。さらに出征の際に兄さの鉄砲が涙で濡れていたことが綴られ戦争を憎む気持ちが伝わってくる。一種の厭戦歌で発禁にならなかったのはレコード化されていなかったからだろう。戦後になって岡林信康がレコード化したほか倍賞千恵子、石原裕次郎ら多くの歌手が歌っている。

 なお「鳴いている」は原詩では「泣いている」に、「もずよ寒いと鳴くがいい」は「百舌よ寒くも泣くでねぇ」となっている。

 「めんこい仔馬」(16年・仁木他喜雄)〽濡れた仔馬のたて髪を 撫でりゃ両手に 朝の露

 親しみやすく軽快な歌で、東宝映画「馬」(山本嘉次郎監督)の主題歌としてつくられたが劇中では歌われず別途レコード発売されヒットした。映画は東北を舞台に少女と馬の触れ合いを描き、しみじみとした感動を呼ぶいい映画だ。チーフ助監督の黒澤明と主演の高峰秀子の間に恋心が芽生え、ひとしきり話題になった。

 「ちいさい秋みつけた」(30年・中田喜直)〽だれかさんが だれかさんが みつけた ちいさいあき ちいさいあき 小さいあき みつけた

  暑かった夏も峠を越え、ちょっぴり秋の気配がしのびよってきた頃の季節感が伝わってくる歌だ。37年にNHK「みんなのうた」でボニージャックスが歌って全国にひろまった。藤城清治の影絵をバックに放送されたこの歌を聴いて、いい歌だなあと感銘したことを今でも覚えている。

 「悲しくてやりきれない」(43年・加藤和彦・ザ・フォークルセイダーズ)〽胸にしみる 空のかがやき 今日も遠くながめ 涙を流す 悲しくて 悲しくて とてもやりきれない

 サトウには珍しいフォークソング。加藤の曲にあとから詞をつけた。若いころ感じる漠然とした寂しさ、むなしさを素直に表現していて詩人の感性が感じられる。                                                        (黒頭巾)