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障がい者福祉の今
総数、6年前より228万人増

2024/06/29 3面
 厚生労働省が5月31日に発表した推計によると、障がい者の総数は2022年12月現在で人口の1割に当たる約1164万6000人だった。身体障がい者が減った一方、知的、精神の各障がい者が増加。総数は6年前の前回推計から実に約228万人増加しており、その要因として発達障がい者の増加が考えられている。推計結果や障がい者福祉施策のポイントを紹介するとともに、発達障がい者への支援について、日本発達障害ネットワークの市川宏伸理事長に聞いた。


<解説>

 障がい者数の推計は、「生活のしづらさなどに関する調査」の一環。障がい者福祉施策の基礎資料として厚労省が実施する調査で、11年12月、16年12月に続いて今回が3回目。「身体障害者手帳」、知的障がいのある人に交付される「療育手帳」、「精神障害者保健福祉手帳」を持つ人のほか、発達障がいや難病などと診断されたことのある人らを含めて対象とし、今回は1万4079人から回答を得た。

 3手帳の所持者を見ると、身体障害者手帳は約416万人(前回比約3%減)、療育手帳は約114万人(同約18・5%増)、精神障害者保健福祉手帳は約120万人(同約43%増)だった。これに手帳を持たない人や施設に入所している人らを含めた推計は右の表の通り。

 一方、医師から発達障がいと診断された人の推計は約87万人(同約81・3%増)だった。専用の手帳はないが、医師から知的障がいもあると診断された人は療育手帳、また、精神障がいと診断された人は精神障害者保健福祉手帳の取得を申請でき、両方を所持することも可能となっている。調査結果では、約87万人のうち、8割近くが手帳を持っているとしている。

 6年前の前回調査に比べて療育手帳と精神障害者保健福祉手帳の所持者が増えた要因について、厚労省は「考えられる理由の一つとして、発達障がいの社会的な認知度の向上がある」と話す。

■「発達障害者支援法」制定で認知度が向上

 障がい者福祉施策は、▽対象範囲の拡大▽サービスの種類と量的な拡大▽社会参加の促進▽自立支援――という方向で拡充されてきた。関連予算を見ると、15年間で約4倍に増加しており、24年度予算は約2兆341億円となっている【下図参照】。

 身体、知的、精神の3障がいについては1940年代から法整備が進み、それぞれの枠組みで施策が進展。2006年には、それらを総合的に見直して一元化した「障害者自立支援法」が施行された(12年の改正で障害者総合支援法に名称変更)。

■公明の原案を土台に支援対象へ位置付け

 しかし、特性が一人一人異なる発達障がいは、こうした既存の枠組みに当てはまらない“制度の谷間”に置かれ、適切な支援の手が届いていなかった。04年に制定された「発達障害者支援法」によって、発達障がいが初めて法律に位置付けられ、国や自治体の支援対象とされるようになった。同法は超党派による議員立法で、公明党の原案を土台としてまとめられた。

 同法に基づき、全ての都道府県・政令市に発達障害者支援センターが設置されるなど、受け皿の整備が進められ、発達障がいに関する社会的な認知度も上がってきた。

 一方で課題もある。知的障がいについては法的な定義がないため、自治体によって療育手帳の交付にばらつきがある。こうした制度的な背景から、必要な人に支援が届いていない状況が指摘されている。

 また、未来に目を向けると、医療・介護分野の就業者は40年時点で約96万人の不足が生じると推計されている。障がい福祉サービスの担い手確保や業務の効率化などが急務となっている。

<インタビュー>
■当事者の生きづらさ生む社会の側の意識変革急げ/日本発達障害ネットワーク理事長 市川宏伸氏

 ――発達障がい者が6年前から1・8倍に増加した。

 特定の世代に偏って多くなっているというよりは、発達障がいだと名乗り出やすい社会状況になってきた。発達障害者支援法が制定されて今年で20年を迎えた。支援が手厚くなったことで、支援を受けてみようと思う人が増えたのではないか。

 また、外来患者の診療を通して感じるのは「障がい」という言葉に対する抵抗感が減っていることだ。障がいの有無を問わず共に学ぶインクルーシブ教育の進展の影響も見て取れ、良い傾向だと思う。

 ――発達障がいに対する理解は。

 発達障がいとは自閉症スペクトラム(ASD)や学習障がい(LD)、注意欠如多動性障がい(ADHD)などの総称だ。「発達障がい」という言葉自体は知っていても、個々の特性を十分に理解している人は多くない。特性の現れ方は人それぞれ異なるなど、極めて多様である故に、正しい理解には時間がかかる。

 「変わった人」「協調性のない人」などという見方は減ってきた。しかし、残念ながら、SNSでは、いまだに発達障がいを誹謗中傷するような投稿があったり、企業の採用面接が発達障がいの人を落とすための手段になっていたりすると聞いている。反対に、米国の企業では、発達障がいの人は独創的な発想をする傾向があるため、積極的に雇用する動きがある。

 発達障がいそのものが悪いのではなく、当事者の周囲に工夫や配慮がない状況が問題だ。改善に向けて、社会の側が意識を変えることだ。障がいの有無などにかかわらず誰もが安心して暮らせる「ユニバーサル社会(共生社会)」の実現が望ましい。

 ――必要な対策は。

 およそ10人に1人の割合で発達障がいの人がいると考えられ、発達障がいとの診断がつかない人との境目も非常に曖昧。最新の国際疾病分類でも知的障がいや発達障がいの定義が見直されている。いずれにしても、低年齢期から個々の特性に応じて適切な支援を行えば、十分に社会に適応できる。そうした支援体制が整ってきた一方、30代半ば以降に対する支援が急がれる。発達障がいへの理解が浸透していなかった時代に生まれ育った世代だ。

 また、医療や介護と同様に、障がい者福祉の現場でも人材不足は深刻だ。外国人材の活用も前向きに検討し、対策を講じていくべきである。

 現場で何か問題が生じた時、すぐに駆け付けてくれるのは公明党だ。この姿勢を今後も貫き、障がい者福祉の充実に尽力してもらいたい。


 いちかわ・ひろのぶ 1945年、さいたま市生まれ。児童青年精神科医。医学博士(東京医科歯科大学)。薬学修士(東京大学)。東京都立梅ケ丘病院院長などを歴任。