解説ワイド
単身世帯2050年に44%、求められる施策は
東京都立大学人文社会学部 室田信一准教授に聞く

2024/06/26 4面
 全世帯に占める単身世帯の割合が、2050年には44.3%に達するとの推計結果を、厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が発表した。未婚化の進行で65歳以上の高齢者単身世帯が増加することなどが影響しているという。推計結果のポイントを解説するとともに、今後の課題や求められる施策について、地域福祉が専門の東京都立大学人文社会学部の室田信一准教授に聞いた。


<解説>
■(厚労省研究所が将来推計)未婚率の上昇が影響

 社人研は4月12日に「日本の世帯数の将来推計」を発表した。同推計は5年に1回実施され、今回は20年の国勢調査を基に「単身」「夫婦のみ」「夫婦と子」「ひとり親と子」「その他」の5類型について50年までの世帯数を分析した【下の折れ線グラフ参照】。

 今回の推計によると、50年には全5261万世帯の44・3%に当たる約2330万世帯が単身世帯となる見込みだ【下の棒グラフ参照】。20年の38・0%から、30年間で6・3ポイント上昇する。

 単身世帯の割合が高くなるペースも速まる。前回推計では、30年の単身世帯の割合は37・9%だったが、今回は41・6%に。40年についても前回の39・3%から今回の43・5%へ、それぞれ4ポイント程度アップしている。

 この単身世帯急増の背景の一つが未婚者の増加である。推計によると、65歳以上の単身世帯の未婚率は、男性で20年の33・7%から50年には59・7%に、女性についても同期間で11・9%から30・2%に上昇する。


<インタビュー>
■身寄りない高齢者が増加/社会全体で支え孤立防げ

 ――今回の推計結果をどう見るか。

 室田信一・東京都立大学准教授 未婚率の高い世代が高齢期に入り、単身世帯が急増する見込みだ。結婚や出産を経験しない人たちが高齢期に入り、一人暮らしを継続する実態が浮き彫りになったといえる。

 とりわけ、一般世帯総数に占める65歳以上の単身世帯の割合は50年に2割を超える。超高齢化社会の日本では、高齢人口の増加だけでなく、身寄りのない単身世帯が着実に増える。

 ただ、こうした結果はこれまで見えていた傾向を覆すものでなく、ショッキングな数字が出たとは思っていない。

 ――世帯の単身化が社会に与える影響は。

 室田 単身世帯が標準的な世帯となって、家族と同居する世帯が減少するようになれば、年金や介護といった社会保障サービスの前提となるモデルの変更が迫られる。地域福祉の支援でも新たな取り組みが必要になる。

 ――単身世帯の増加に政府はどう対応すべきか。

 室田 人口減少や財政難などの制約がある中で、単身世帯を孤立させることなく、社会全体で支える必要がある。

 政府が4月から孤独・孤立対策推進法をスタートさせ、自殺対策に取り組むNPO法人などと協力しながら、地域の実情に即した支援を強化していることなどは評価したい。

 単身世帯が標準タイプとなる社会の到来を控えて、セーフティーネット(安全網)を含めた長期的なサポート体制の強化が求められている。

 ――対策の重要性が増している。

 室田 そうだ。戦後の福祉は、産業の高度化に伴う都市化で分業化が進展。その結果、福祉を支える側と支えられる側の二極構造ができた。

 しかし、孤独・孤立など現代的な課題には、福祉を担う人だけでは対応しきれなくなった。

 隣人同士の支援、地域の支え合いの枠組みが欠かせず、都市化する以前の農村共同体で行われた“相互扶助”を現代的にアレンジして、どう生かすかが鍵になっている。

■地域とつながる“居場所”を/ソウル市の取り組み参考に

 ――相互扶助を推進する上でハード対策は。

 室田 望まない孤独・孤立を防ぎ、当事者が生き生きと健康で幸せに暮らせるよう、社会的なつながりを保つ公共空間の提供が大切だ。

 高齢社会白書(24年版)によると、65歳以上の高齢者のうち親しい友人が「たくさんいる」と答えた人の割合は7・8%と、18年度の前回調査(24・7%)から17ポイント程度も減少している。コロナ禍の影響もあるが、人付き合いなど地域交流が減少傾向にあることを示している。

 そこで参考にしたいのは、単身世帯者向けの“居場所”を提供する韓国のソウル市の取り組みだ。

 同市は、単身世帯者向けの支援センター「STAY.G」を後押し。利用者は施設内で、おしゃべりをしたり交流することができる。訪れた人の見守りにもつながっている。

 さらにここでは自由に本を読んだり、インターネットを使ったり、体を休めたりすることもできる。費用は無料だ。人間関係が苦手な人でも、1人でふらっと来て安心して過ごせる空間になっている。

 また利用者には、スープなどの食料品のほか、マグカップや爪切りなど日用品の提供も行っている。これらの品には施設のマークが記されており、病気やけがで入院した際などには施設の利用履歴から早期の身元確認にも役立てられる。日本にない支援方法の一つだ。

 施設はいわば、孤独・孤立へのケアとひきこもり支援、生活困窮者対策を同時に行っているといえる。

 ――ソフト面の対策で必要なことは。

 室田 地域で暮らす人やさまざまな組織が、単身世帯者を自発的に支援できる基盤づくりが大事になる。

 その点で生かしたいのは、地縁・血縁関係のほか、宗教上の同志的なつながりだ。日本において創価学会はその一つだ。韓国の場合、クリスチャンは大きな力を持っており、単身世帯者らを支える重要な機能を担っている。

 地域の自由な発想を生かすため、政府の関与を受け入れつつ、宗教上のつながりなど内発的な関係性を地域の支援ネットワークの形成に生かすことが求められる。

■コーディネーター役も必要

 ――そのほかは。

 室田 地域における支え合いのネットワークづくりでは、かつての世話好きな村長さんのようなコーディネーター役(調整役)の存在が欠かせない。

 そのため、支援でリーダーシップを発揮する、福祉専門職を含むコミュニティー・オーガナイザー(組織構築者)と呼ばれる存在の育成・確保に努めたい。

 こういう人たちが、地域のソーシャルワーカーやNPO法人、社会福祉協議会など、さまざまな関係者や組織を巻き込みながら、支え合いの基盤をつくる先頭に立っていってほしい。


 むろた・しんいち 1977年、東京都生まれ。米ニューヨーク市立大学ハンター校卒。同大学院修士課程修了。同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程修了。博士(社会福祉学)。2012年から現職。東京都社会福祉審議会委員などを務める。著書に『地域福祉』(ミネルヴァ書房、共著)など多数。

単身世帯向け支援センター「STAY.G」=2月 韓国・ソウル市(室田准教授提供)
「STAY.G」の利用スペースの一部=2月 韓国・ソウル市(室田准教授提供)