導入へ機運高まる選択的夫婦別姓
2024/06/25 3面
 日本経済団体連合会(経団連)は10日、結婚後も夫婦がそれぞれの姓を選べる「選択的夫婦別姓制度」の早期実現を求める政策提言を初めて発表した。わが国最大の総合経済団体が実現を求めたインパクトは大きく、制度導入への社会的な機運が高まりつつある。制度の必要性や経緯、公明党の取り組みなどを解説するとともに、白鷗大学の水野紀子教授の見解を紹介する。


■経団連が政策提言で要望/現行法は「女性の活躍阻む」

 民法750条の規定では結婚時に夫婦のいずれかが姓を改め「夫婦同姓」にすると定められている。実際には約95%の夫婦が夫の姓を選び、妻が改姓している。

 一方、女性の社会進出が進む中、企業などでは改姓によるキャリアの分断を避けるために結婚後も旧姓を通称として使用することが定着。パスポートへの旧姓併記も可能になっている。

 しかし、日本独自のルールのため弊害も多い。例えば、海外では通称使用でなりすましを疑われたり、ビザや航空券に記されている戸籍名と異なることで不正を疑われたりするといったケースもあるという。

 政策提言の中で経団連は夫婦同姓を求める現行の民法規定について、改姓による負担が女性に偏っていると分析し、女性活躍を阻害する社会制度の一つであると指摘する。

 さらに、旧姓の通称使用が可能な場合でも、「何かしら不便さ・不都合、不利益が生じる」と回答した企業の女性役員の割合が88%に上った調査結果を公表。「希望すれば、生まれ持った姓を戸籍上の姓として名乗り続けることができる制度の早期実現を」と主張している。

 記者会見で十倉雅和会長は「当事者個人の問題として片付けられず、企業にとってもビジネス上のリスクとなっている」と述べ、政府に対して改正法案の一刻も早い提出を求めた。

■同姓選択規定は日本のみ

 夫婦の姓について古くは別姓が採られていたが、1898年施行の明治民法で「夫婦は家の姓を名乗る」と定められ、戦後の民法改正でも夫婦同姓の規定は残った。国際的には夫婦同姓を採用していた国が相次いで法改正し、現在、婚姻時に夫婦同姓しか選択できない国は日本のみとされる。

 選択的夫婦別姓を巡っては、法制審議会が1996年に導入を盛り込んだ民法改正案要綱を答申。法務省は96年と2010年に改正法案を準備したものの、今に至るまで国会提出には至っていない。

 司法では、最高裁が15年と21年に現行制度を合憲としつつも、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」と指摘している。こうした状況に対して国連女子差別撤廃委員会も、03年、09年、16年の3度にわたって現行制度を是正するよう日本に対して勧告している。

■公明、別姓の法制化を主張

 公明党は、人権を守る観点から一貫して選択的夫婦別姓制度の法制化を訴えてきた。01年には独自の民法改正案を国会に提出。政府に対して民法改正案の提出を提言してきたほか、これまでの国政選挙の公約にも制度導入を掲げてきた。さらに、法制化への機運を高めるため21年8月、各地方議会から国会に対して意見書を提出する取り組みを、党を挙げて推進した。

■人格権侵害など弊害深刻に/白鷗大学教授・東北大学名誉教授 水野紀子氏

 明治時代につくられた民法によって夫婦が同姓を名乗る現在の制度は、わが国の長い法制史から見ると、ごく一部の期間にすぎず、歴史的には浅い。むしろ、新しい制度とも言える。

 この問題を巡っては「古き良き日本の伝統」などを背景に夫婦同姓を主張する人がいるが、説得性に欠けると言わざるを得ない。

 法律面から見ても問題がある。片方の姓を強制的に変更させることで被る不利益は、「人格権」の一つである氏名権を侵害しかねない。ひいては、憲法第13条(個人の尊重)、14条(法の下の平等)、24条(家族生活における両性の平等)などに反する可能性がある。社会が大きく変化する現代において、その弊害はより深刻になっている。

 民法750条の改正が待たれるが、立法の過程において戸籍制度の抜本的改正などは必要なく、現在の夫婦単位の戸籍に別姓を書き込む追加的な改正で足りる。

 課題となるのは、子の姓の決定方法だろう。婚姻時に決めておき、両親が望み、それと異なる姓もつけられるようにすれば、姓が決まらない事態もなく、祖父母の養子にするという実態と異なる便法も不要となる。

 夫婦同姓による弊害を認める世論はかつてなく高まっている。立法府が果たすべき責任は極めて重い。