改正支援法などが成立
「子ども・子育て」強化どう見る

末冨芳・日本大学教授に聞く
2024/06/13 3面


 政府の「こども未来戦略」に基づき、今年度から3年間で集中的に取り組む「加速化プラン」(年最大3.6兆円規模)を実行するための改正子ども・子育て支援法などが5日、成立した。同戦略や今回の法改正などを通して、子ども・子育て施策が大きく強化されることの意義と公明党の果たした役割について、日本大学の末冨芳教授に聞いた。


■年3・6兆円を確保/“財源の壁”打破の意義大

 ――改正子ども・子育て支援法などが成立した意義をどう見るか。

 大きく2点挙げたい。まずは、子ども・子育て施策を強化するために年3・6兆円もの財源を確保したことだ。これまで社会保障費は、高齢者関連が中心で、子ども関連の予算を大幅に増やすことが難しかった。その壁を破り、毎年投入する財源を抜本的に強化できた。

 一般会計からの繰り入れや、歳出削減など多様な財源となっている。そこには公的医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」が含まれる。この支援金については、子育てのさまざまなリスクを社会全体で支える財源の一つとして極めて重要な意義がある。

 また今回、子ども・子育て支援のための新たな特別会計、いわゆる「こども金庫」が創設され、子ども・若者のために使った予算が“見える化”されることも高く評価したい。

■差別なく全員支える姿勢への変化を評価

 ――2点目は。

 日本政府が、全ての子どもを差別なく支えようとする普遍主義の立場へと、大きく政策転換しつつあることだ。

 今回の法改正では、公明党の強い働き掛けによって、児童手当の所得制限を外したほか、多子世帯中心に児童扶養手当と高等教育無償化を拡充した。就労要件を問わず利用できる「こども誰でも通園制度」の創設も盛り込まれた。

 所得などで線引きし、限られた子どもしか支援しない政策が多かった日本は、子育てする親子に冷淡な“子育て罰社会”であると指摘せざるを得なかった。今回の法改正からは、そうした状況から脱却し、全ての子どもを支えようとする姿勢への変化がうかがえる。明らかに政策のレベルが上がったと言える。

 ――今後に向けては。

 予想以上のスピードで深刻化する少子化の流れを変えるには、年3・6兆円の財源では、まだまだ不十分だ。2030年までが少子化反転のラストチャンスだ。この3年間の「加速化プラン」で終わりではなく、もう一段、二段とギアを上げ、さらに加速していくことが不可欠だ。

■公明が突破口を開いた/トータルプランで進むべき方向示す

 ――公明党が果たした役割について。

 子ども・子育て施策が近年、一気に前進し始める契機となったのが、22年6月に成立した「こども基本法」だ。同法の誕生によって、子どもの権利や利益の優先度を一気に高めることができた。21年の衆院選において与党で唯一、この法制化を公約に掲げ、実現にこぎ着けてくれたのが公明党だ。子ども・子育て施策を大幅に強化する突破口を開いた取り組みに、とても感謝している。

 公明党は、政府の子ども・子育て施策が進むべき方向を指し示す“羅針盤”の役割を果たすとともに、実際にその方向に進むよう政府を突き動かす働きをしてきた。22年11月には、若者期から妊娠・出産、子どもが社会に巣立つまでの一貫した支援策を示した「子育て応援トータルプラン」を発表した。これが政府の「こども未来戦略」に多大な影響を与え、色濃く反映された。

 ――今後、公明党に期待したいことは。

 引き続き、子ども・子育て施策のさらなる強化を進める先頭に立ってもらいたい。具体的には、母子家庭などに支給される児童扶養手当の拡充だ。今回の増額対象が第3子に限定されており、子どもが2人以下の世帯には恩恵が届かない。第1子からの増額をお願いしたい。

 もう一つは、若者政策の強化だ。こども家庭庁発足に伴い、若者施策の所管は、従来の内閣府から同庁に移管されたが、施策の推進体制が十分でない懸念がある。同庁のこども家庭審議会に若者部会を設置し、そこに内閣府時代からの経緯を知る職員や、専門性の高い委員、若者委員を加えて再出発すべきだ。

 ――こども基本法を受け、各自治体では子ども・若者施策を巡る「こども計画」の策定が始まっている。

 計画作りに子ども・若者の参画を進めてほしい。会議の委員に子どもや若者の当事者を迎えたり、地方議会に参考人として呼んで意見を聞くなど、できることはいくらでもある。公明党の地方議員には、子ども・若者と行政との橋渡し役を期待している。


 すえとみ・かおり 専門は教育行政学、教育財政学。京都大学卒、同大学院教育学博士課程単位取得退学。博士(学術)。こども家庭庁こども家庭審議会分科会委員。公益財団法人「あすのば」理事。著作に『子育て罰』(共著)、『子ども若者の権利とこども基本法』(編著)など。