電子地域通貨で街を元気に
2024/05/09 3面
 スマートフォンアプリのキャッシュレス決済などを通じて、特定の地域のみで利用できる「電子地域通貨」。地域内での消費を促し、街の経済を元気にしようと、近年、全国の自治体などが導入しつつある。各地の事例を紹介するとともに、地域通貨に詳しい専修大学経済学部教授の泉留維氏に話を聞いた。

■(東京・渋谷区「ハチペイ」)「集客好調、若い世代増えた」/決済手数料ゼロ、中小商店で導入相次ぐ

 「ワンワン!」。東京都渋谷区にあるクリーニング屋を訪れた女性が、店頭に置かれた2次元コードにスマホをかざして操作すると、“忠犬ハチ公”の鳴き声が響いた。区議会公明党が推進し、2022年11月に区が導入した電子地域通貨、キャッシュレス決済アプリ「ハチペイ」で支払いをする様子だ。

 クレジットカードやセブン銀行のATMなどでお金をチャージすれば、区内の約3600店やイベントなどで利用でき、決済金額の8%がポイント還元される特典が付く。区民を対象に、2万円分購入で3万円分の買い物ができる50%上乗せの電子商品券も過去2回発行された。利用者からは「現金と同じ感覚で使えて、お得なポイントもたまるからうれしい」と好評だ。

■利用者数15万人超

 ハチペイは民間事業者の電子決済サービスとは違い店側の導入費・決済手数料がゼロ。このため、電子決済を敬遠していた中小商店でも導入が相次いでいる。

 昨年秋に導入したクリーニング屋店主は「電子決済には抵抗があったが、担当者が丁寧に説明してくれ決断した」と語り「客の2人に1人がハチペイ決済になり、集客は好調だ。20~30代の客が増えた」と喜ぶ。

 ハチペイの導入・運用には、公明党が拡充を推進してきた国の地方創生臨時交付金などを活用。区産業観光課によると、4月23日現在の利用者数は15万2000人、昨年度の流通額は約75億円に上るという。同課の担当者は「今後も加盟店の拡大を進め、さらなる地域定着をめざす」と意気込む。

■(岐阜・飛騨高山地域「さるぼぼコイン」)3自治体と信用組合が連携

 日本の電子地域通貨の先駆けとなったのが、飛騨高山地域の金融機関・飛騨信用組合が自治体と連携して17年12月に導入した「さるぼぼコイン」だ。専用のスマホアプリを通じて支払いができ、岐阜県高山市、飛騨市、白川村の店舗約2000店などで使える。

 同コインの特徴は、地域に根差した金融機関が開発から運用、加盟店・ユーザーの拡大までを実施するため、地域に浸透しやすく、行政側の負担も少なくて済む点だ。スマホアプリへのチャージも、専用機やATMに加えて、ネットを通じて同組合の預金口座から直接入金することが可能だ。

 また、地域の加盟店で使えるだけでなく、自治体窓口の発行手数料や住民税などの支払い、商品の仕入れなど事業者間の取引でも利用できる。飛騨信用組合の担当者によると、自治体や金融機関、関係事業者らが連携したことで「口コミでどんどん利用が広がり、70~80代の高齢者ユーザーも増えている」と話す。

■公明が普及後押し

 公明党はこれまで、電子地域通貨や電子決済サービスの普及を強く進めてきた。国会では、地域通貨の導入・運用などに活用できる国の「地方創生臨時交付金」や「デジタル田園都市国家構想交付金」の拡充を主張。全国各地の地方議会でも、議会質問や予算要望などを通じて、デジタルを活用した地域通貨の導入を後押ししてきた。

■換金など紙より手間少なく/専修大学経済学部 泉留維教授

 国内で地域通貨が注目されたのは2000年前後からだ。02~07年には紙の地域通貨がブームとなり、全国各地で導入された。だが、目に見えた効果が少なく、手間が掛かることなどを理由に、08~17年にかけて徐々に減少していった。

 20年前後からは、デジタル決済の普及やコロナ禍の影響により、電子地域通貨を導入する自治体や商工会などが現れ始めた。電子には、換金や紙券の印刷・保管といった手間を少なくできるという利点がある。

 私の調査では、電子地域通貨の稼働数は、19年末の13から、23年末には52まで増加した。

 電子地域通貨は、地元での消費喚起に一定の効果が見込める一方、導入・維持や、キャンペーン実施などにコストがかかる。それだけに、地元住民に理解され、長く使われ続けるものにしていくことが特に大切になる。地域に合ったあり方を、住民や事業者らと一緒に議論しながら、持続可能な電子地域通貨に育てていく発想が必要ではないか。