解説ワイド
デジタルの社会実装加速へ
今後10年間の整備計画で政府案

2024/05/08 4面
 デジタル技術よる恩恵を社会全体に行き渡らせるため、経済産業省は3月28日、政府が打ち出した地域活性化策「デジタル田園都市国家構想」の一環として、今後10年間の目標を定めた「デジタルライフライン全国総合整備計画」案を取りまとめた。

自動運転やドローンといったデジタル技術を活用したサービスの社会実装により、社会課題の解決や産業発展などをめざす。政府は6月にも同計画が盛り込まれた「デジタル社会重点計画」を閣議決定する。

今回の計画案の内容を紹介するとともに、独立行政法人情報処理推進機構デジタル基盤センターの平本健二センター長にその意義や課題を聞いた。


<解説>
■1級河川上空にドローン航路
■東北~九州、高速道で自動運転
■インフラ管理、全国50都市で


 人手不足や災害激甚化などへの対応は待ったなしの状況にある。デジタルサービスの社会実装によって、こうした社会問題の解決をめざすのが「デジタルライフライン全国総合整備計画」だ。

 社会実装を進めるには、関係省庁や産業界が全体像を共有し足並みをそろえて取り組みを進めることが欠かせない。だが、これまではデジタル化を担う主体が、それぞれの目的に特化したサービスを進めた結果、サイロ化(孤立化)する課題が指摘されていた。このため、サービスの社会実装に必要な「ハード」「ソフト」「ルール」といったデジタルライフラインを一体的に進めるのが同計画の狙いだ。

 そこで、社会実装される将来イメージを早期に具体化するため、同計画では①ドローン航路②自動運転サービス支援道の設定③インフラ管理デジタルトランスフォーメーション(DX)――をアーリーハーベスト(先行)プロジェクトと位置付けた。先行地域において、2024年度から実装を進める。その結果を踏まえ、10年目の33年度までに全国に横展開することを基本戦略とした【表参照】。

 先行プロジェクトのうち、ドローン航路では、自立・自動飛行による巡視・点検や物流自動化の普及をめざす。静岡県浜松市の天竜川水系上空の30キロメートルを皮切りに、33年度までに国が管理する1級河川の上空(総延長1万キロメートル)や、全国の送電網の上空(4万キロメートル)に整備する。

 自動運転では全国の高速道路や一般道を対象にハードやソフトの取り組みを進める。カメラや通信機器のシステムを取り入れるとともに、優先レーンを設置【イラスト参照】。高速道路では26年度までに東北自動車道などに広げ、33年度までには東北地方から九州地方までを結ぶ。

 インフラ管理DXは、地下にあるガス管、通信ケーブル、上下水道管などの埋設状況を共通システムに統合し、3Dの地図で精密に把握できるようにする。

 現状では、掘削時に埋設物を管理する事業者や自治体などにそれぞれ埋設状況を問い合わせる必要がある。共通システムが実現すれば、工事のスピードアップが見込まれる。さいたま市と東京都八王子市で開始し、33年度までに50都市に広げる計画だ。

 経産省は今後10年間で少なくとも2兆円の経済効果を生むと見込んでいる。同省の担当者は「全体の計画ができることによって、企業の投資を呼び込める。官民で取り組みを加速させていきたい」と述べている。

<インタビュー>
■情報処理推進機構デジタル基盤センター長 平本健二氏に聞く
■ライフラインの将来像示す/新産業創出のチャンスにも


 ――計画の意義は。

 平本健二センター長 社会はライフラインがなければ発展しない。日本の高度成長期の時には道路を作り、鉄道網ができ、そのネットワークとインフラをセットで作ったからこそ、そこに人が集まり発展することができた。 
 今後のデジタル社会におけるライフラインとは何か。そしてどう整備すべきかを今回の計画では示している。

 今回の計画で示すデジタルライフラインには二つの重要な観点がある。
 一つ目は、現在のリアルなインフラを支えていく観点だ。デジタル技術を使ったドローンや自動運転が使えるように現在のインフラを変えていかなくてはならない。

 ――もう一つは。

 平本 デジタル社会のための基盤をつくる観点だ。具体的にはデジタル社会に対して①ハード②ソフト③ルール――のインフラを整備することだ。この計画では三つそろって実現することを強調している。今まではハードの実証実験をやり、それに伴うルールは臨時で作ることがあった。だが、デジタル社会とはいろいろなものがつながる時代だ。道路業界は道路業界でつながればいいという話ではなく、今は産業が横断しているのが特徴だ。従って今回の計画は総合的な整備計画になっている。計画でロードマップを示したことにより企業の投資につながるのも大きな利点だろう。

 ――人口減少社会においてデジタル技術が果たす役割は。

 平本 デジタル技術が人々の生活をサポートする役割を担うだろう。人口減少で雇用が減った部分を支えたり、住民の移動を支えたり、デジタル技術をうまく使うことが今後の日本の将来に非常に重要となってくる。

 デジタル技術は、現状の課題解決の延長線ではなく、現状を抜本的に変えられる。例えば、渋滞を避けて配送の効率化を考えていたものが、ドローン配送になれば現状を大きく変えられる。大切なのは、デジタル技術をどう使うのか。そのイメージを膨らませることだ。そこにビジネスチャンスがある。人口減少社会は、デジタル技術を使って新しい産業を生み出すチャンスの塊である。

■行政の基礎データ整えよ

 ――計画を進めるに当たって日本の課題は何か。

 平本 基礎データの充実だ。日本は他国と比べても、人口を把握でき、住民票や戸籍など必要なデータは全部ある。だが、データが紙で作られていたり、データの形式が異なっていたり、利用しやすい形でデータがそろっていない。世界では、使いやすいデータを行政機関が提供するのがトレンド(傾向)になっている。データが出てくれば、おのずとサービスが生み出され、新たな産業が生まれてくる。行政機関が持っている基礎データを使いやすいように整えることに力を入れてもらいたい。100年後も扱えるようなデータ管理を意識してもらいたい。データへの投資はすぐに効果は出ないが、未来に投資する考えで捉えることが大切だ。

 ――そのほかには。

 平本 法律関連業務の効率性を高めてくれるITサービスであるリーガルテックの普及だ。世界では法的な問題をスムーズに解消するために広がっている。技術の変化が速いからこそ、すぐにルールを確認できる仕組みが求められている。例えば、輸出ができるかどうかなど、瞬時に確認できれば、障壁なくモノが動きやすくなるだろう。


 ひらもと・けんじ システム会社、コンサルティング会社、経済産業省、内閣官房、デジタル庁などを経て、現職。AIセーフティ・インスティテュート事務局長兼任。デジタル庁で政府のデータ戦略の責任者を務め、現在は、データを含むデジタル基盤を推進。東京大学非常勤講師を兼務。