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外国人との共生が焦点に
党2040ビジョン検討委自治体アンケート踏まえ/日本国際交流センター 毛受敏浩執行理事に聞く

2024/04/26 3面
 今月12日に公表した、公明党2040ビジョン検討委員会(委員長=石井啓一幹事長)による「少子高齢化、人口減少への対応に関する自治体アンケート」の結果から、存続に危機感を抱く市区町村が3割を超える現状が浮かび上がった【グラフ参照】。国立社会保障・人口問題研究所が昨年末にまとめた2040年の推計人口に対する受け止めを聞いたもので、このうち約7割が「(外国人材が)将来的に不足する」と答えている。外国人の受け入れのみならず、共生をどう実現するか。日本国際交流センターの毛受敏浩執行理事に見解を聞くとともに、自治体の先進事例を紹介する。

■“なし崩し定住”いずれ限界/異文化受け入れを発展のてこに
■(党調査結果)市町村の存続に危うさ浮き彫り


 ――党自治体アンケートの結果をどう見るか。

 毛受敏浩執行理事 外国人の問題は「労働力」の観点から議論されることが多い中で、地域社会の人口問題として焦点を当てているのは意味がある。踏み込んだ質問であり、自治体存続の危うい現状が判明した点は非常に良かったと思う。

 国を挙げて地方創生に取り組んで10年となるが、人口減少は続き、東京一極集中の是正もなされていない。現実を直視した形で人口問題に取り組むべきだった。「移民政策」をタブー視せず、外国人の受け入れを真正面から議論できていればとの後悔がある。

 在留外国人は、昨年末で340万人を超え、過去最多となった。一昨年末から33万人以上増えている。国に比べ、現場で外国人との接点が多い自治体は、地域の将来を描く上で彼らの活躍・定着が欠かせないことに気付き始めている。その傾向が強まっている実態が、今回のアンケートで明らかになったと言える。

 ――外国人の受け入れを巡る政府の対応は。

 毛受 実質的に定住を前提とした政策にかじを切り、外国人の受け入れ態勢の整備を急ピッチで進めている。18年に策定されて以降、毎年改定されている「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」には、217の施策が盛り込まれている。国際基準で見れば「移民政策」に他ならないが、それがステルス(隠密)的に進められている。

 これでは、一般国民の意識が変わらない。「人手不足だから仕方ない」と、非常に後ろ向きな中で、外国人の流入が進んでいる。一方、外国人の側も「自分たちは一時的な労働者」「そのうちに母国に帰る」と思っているから、日本語を学ぶ意欲も低い。

 そうした帰国前提の外国人が、実は、なし崩し的に定着し、その子どもが増える中で教育や就労の問題が生じている。例えば、公立学校において日本語指導が必要な外国籍の児童生徒は21年までの10年間で1・8倍に増えている。また、大学などへの進学率も日本人に比べて極めて低いとのデータもある。

■「移民」への国の方針、内外に発信が必要

 ――必要な対策は。

 毛受 “なし崩し定住”が進めば、将来、外国人と日本人の間の乖離や分断につながり、いずれ限界に達するだろう。外国人の増加が不可避である以上、受け入れの基盤となる在留外国人基本法が必要だ。「外国人の受け入れ=移民」に対する国の方針を国内外へ明確に発信するべきだ。その土台がないために、多文化共生に汗する自治体やNPOの現場からは「もう限界だ」との声が上がっている。

 アナウンスメント効果は抜群にある。海外の投資家にとって、人口減少が進む日本は中長期的な視点では魅力的な国だと思われていないが、外国人との共生社会は、間違いなく日本のイメージアップになる。

 40年代には在留外国人が1000万人を超えるとみている。人口の1割が外国人になれば、さまざまなサービスも刷新され、ビジネスチャンスも広がる。明治初期の文明開化のように、そもそも日本は歴史的に異文化を取り入れて、それをてこにイノベーション(技術革新)を起こして発展してきた国柄だ。変化にあらがうことは、むしろ日本的ではないと感じる。

 移民については20年以上議論しながら前進していない。すでに冷静に議論できる土壌は整っていると思う。国民の意識を喚起し、日本の将来を見据え、責任ある議論が行われることを望んでいる。


 めんじゅ・としひろ 1954年、徳島県生まれ。慶応義塾大学卒。米エバーグリーン州立大学大学院修士。兵庫県庁勤務を経て現職。文部科学省の日本語教育部会専門委員も務める。近著に『自治体がひらく日本の移民政策[第2版]』(明石書店)など著書多数。


【各地の先進事例】


■海外自治体と覚書結び人材確保/高知県
 “外国人材から選ばれる県”をめざす高知県は、外国人材の確保や育成・定着に向けた施策に力を入れている。

 中でも、特徴的なのは、海外の自治体と人材に関する覚書を締結していることだ。2023年8月にはベトナムのラムドン省、今年1月にはインドのタミル・ナド州とそれぞれ結んでいる。

 昨年度までの3年間では、ベトナムやインドなどの現地訪問を重ね、インドからの技能実習生を初めて受け入れた。こうした取り組みの結果、県内の外国人労働者のうち、「技能実習」と「特定技能」を合わせた人数は21年度の2169人から、23年度の3059人に増えている。

 24年度からも県の4カ年計画「第2期外国人材受入・活躍推進プラン」に基づき、海外自治体との連携を強化し、人材の着実な受け入れを図っていくとしている。

■多文化のまちづくり進める会議/東京・新宿区
 東京都新宿区は、区長の諮問機関として「多文化共生まちづくり会議」を12年9月に発足させ、外国人住民も含めた区民の意見を区政に反映させている。

 発足当時、区民の10人に1人が外国人で、日本での慣れない暮らしに苦労する外国人住民の増加が課題だった。

 同会議は▷学識経験者▷区民▷多文化共生活動団体や地域団体の構成員――で組織され、任期は2年。審議内容は報告書としてまとめ、区長に提言し、新生活を始める外国人向けに暮らしのルールやマナーなどを紹介する多言語の動画配信といった施策が実施された。

 一方、同会議は、今年2月に区が公表した多文化共生に関する実態調査にも携わった。調査では、近所に外国人が生活することを「好ましい」と答えた日本人住民が4割近くに上り、「好ましくない」の1割を大きく上回った。

■地域との橋渡しをする住民登録/長野・松本市
 長野県松本市は21年4月から、地域と外国人住民の“橋渡し役”を担う人材を登録する「多文化共生キーパーソン事業」を実施している。希望する住民は国籍を問わず申請が可能。今月19日現在で登録者は128人となっている。

 主な活動は、①つながりのある外国人住民に市からの情報を伝える②相談を聞くなどしてつながる③国際交流などのイベントに一緒に参加する④災害時はお互いに助け合って寄り添う――など。

 現在実施している「第3次多文化共生推進プラン」(21~25年度)には、同キーパーソンを介した外国人住民への行政支援や民生委員らとの連携強化などの具体策が明記されている。

 市担当者は、キーパーソン同士のつながりも強化していくとして「積極的に取り組んでいる地域を起点に展開を図りたい」と意気込みを語っている。