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物価高超える賃上げへ促進税制が拡充
赤字中小企業も税優遇/「人への投資」(女性活躍、子育て支援)で控除率アップ

2024/03/25 6面
 賃上げに積極的な企業の税負担を軽減する「賃上げ促進税制」が4月から拡充される。公明党が強く推進したもので、賃上げの裾野を広げるため、赤字の中小企業にも恩恵が及ぶようにしたり、税額控除率を引き上げたりした。その概要を解説するとともに、期待される効果などについて日本商工会議所の石田徹専務理事に聞いた。

 賃上げ促進税制は、企業が一定の基準を超えて従業員の賃上げをした場合、その一部を法人税(個人事業主は所得税)から控除できる制度だ。2023年の春闘で30年ぶりとなる高水準の賃上げが実現したことを一過性の動きとせず、物価高に負けない構造的・持続的な賃上げを実現するため、24年度税制改正で大幅に内容が充実された。

■上乗せ措置を含め最大控除率45%に

 最大のポイントは、国内企業の9割超を占め、雇用の7割を担っている中小企業の賃上げ実現への支援が強化されたことだ。赤字企業は法人税の納税額がゼロのため、賃上げ促進税制を活用できなかったが、中小企業が賃上げした場合は控除を5年間繰り越せ、期間中に黒字になれば税優遇を受けられる「繰越控除制度」を創設した。

 また、教育訓練など「人への投資」を行った場合の上乗せ措置を含めた合計最大控除率は、23年度の40%から45%へとアップ。教育訓練費を増やした企業に対する上乗せ措置は要件を緩和し、前年度比で費用を5%以上増やせば控除率が10%プラスされる。

 女性の活躍促進や子育てとの両立支援に積極的な企業への上乗せ措置も新たに設け、厚生労働省が定める認定制度「えるぼし」か「くるみん」に認定されていれば、控除率が5%プラスされる。

 このように、一時的な賃上げだけでなく従業員の働き方を改善する投資に税優遇のメリット(利点)を与えることで、構造的・持続的な賃上げをめざす狙いがある。

■地域の雇用支える中堅企業枠を新設

 23年度までは大企業として扱っていた、資本金が1億円超、従業員2000人以下の企業については、地域の良質な雇用を支えていることから「中堅企業」として分類し、新たに枠を設けた。

 合計最大控除率は35%で大企業と同じだが、25%の控除を受けるために必要な賃上げが「4%以上」と、大企業の「7%以上」よりも条件が低く設定されている。

 教育訓練費の上乗せ措置は、費用を10%以上増やせば控除率が5%プラスされる。女性の活躍促進・子育て両立支援への上乗せ措置は、「えるぼし3段階目以上」か「プラチナくるみん」の認定で、控除率が5%プラスされる。

 日本全体の賃上げのリード役を期待される大企業については、合計最大控除率を30%から35%へと拡充。控除を受けるための賃上げ要件を細分化し、一段と高い賃上げに取り組むことを促した。

 教育訓練費の上乗せ措置は中堅企業と同じだが、女性の活躍促進への上乗せ措置の条件として「プラチナえるぼし」の認定が必要になっている。

■公明党が強く推進

 物価高に負けない賃上げに向けて公明党は、24年度税制改正で賃上げ促進税制の抜本的な強化を主張し実現。昨年10月には、中小企業・小規模事業者らの賃上げを強力に支援する施策を掲げた「中小企業等の賃上げ応援トータルプラン」を政府に提出し、適正な価格転嫁・取引環境の改善や生産性向上、資金繰りなどを強く求めていた。

■5年の繰越控除「画期的」/日本商工会議所 石田徹専務理事

 ――賃上げ促進税制の拡充をどのように評価しているか。

 中小企業の賃上げの裾野を広げるとともに、そのモメンタム(勢い)を強化するものであり、構造的・持続的な賃上げに寄与することを大いに期待している。実現に尽力してくれた公明党には心から感謝したい。

 中でも、商工会議所が強く要望してきた繰越控除制度が新設され、税額控除の繰越期間が過去最長の5年間になったことは極めて画期的だ。「足元は赤字であるものの、同税制を活用して賃上げに取り組みたい」という中小企業の声も聞いている。特に観光・サービス関連産業を中心として、コロナ禍で大きな打撃を受け、当時の赤字(繰越欠損金)が残っている企業にとって有効な施策だ。

 また、教育訓練費を増やした際の控除率上乗せ措置の要件緩和や、女性活躍・子育ての両立を支援する企業への上乗せ措置の新設による控除率の最大45%への深掘りのほか、中堅企業向けの枠が創設されたことも大変心強い。

 ――中小企業の賃上げを巡る動向は。

 日本商工会議所の調査では、2024年度に「賃上げを実施予定」とする中小企業は約61%と、前年度比で3ポイント増加した。ただし、うち約6割は業績改善が伴わない、いわゆる「防衛的な賃上げ」だ。

 原材料高や労務費の上昇が続く中、多くの中小企業では価格転嫁が追い付かず、賃上げの原資となる収益確保が困難な状況にある。そのため将来への明るい展望が描けず、持続的な賃上げをちゅうちょする経営者は多い。

 そのハードルを乗り越えて構造的・持続的な賃上げに踏み切るためには、中小企業自身が自己変革を通じて生産性と付加価値を上昇させ、自社商品・サービスの価格設定を積極的に見直すことが不可欠だ。今後も公明党には、事業承継税制や設備投資減税の充実、取引価格の適正化の後押しなど、中小企業の実態に寄り添った力強い支援をお願いしたい。