東日本大震災13年

被災者の生活再建に伴走

災害ケースマネジメントの先進例<仙台モデル>

2024/03/11 3面

 

 被災者が抱える個別の課題に合わせて、伴走型で生活再建を支援する「災害ケースマネジメント」の手法が広がってきた。国内では東日本大震災の後、仙台市が仮設住宅の入居者の現状をアウトリーチ(訪問)で把握して「被災者生活再建推進プログラム」を策定し、市と社会福祉協議会、NPOや弁護士など専門家による官民連携で住まいの再建を支えた「仙台モデル」が先進事例とされている。その成果を紹介するとともに、同プログラムのノウハウを生かし、住民の孤立を防ぎ、コミュニティー形成をサポートする「つなぐ・つながるプロジェクト」の取り組みを報告する。(東日本大震災取材班=武田将宣)

 

 

■官民協働でプログラム策定

 

 仙台市内では、最大1万2009世帯(2012年3月)が仮設住宅に身を寄せた。その8割に当たる9838世帯(同)が賃貸マンションなどを活用した「みなし仮設」に入居。同じ地域にまとまって暮らすプレハブ仮設団地と異なり、入居者が分散し、市や支援団体などによる情報提供や現状把握が難しくなった。

 

 そこで11年8月から幹部職員も含めた市職員が、みなし仮設を訪問し、被災者の声を聞いた。12年10月からはシルバー人材センターに委託した「生活再建支援員」が全戸を訪問し、住宅再建の希望や困り事などの情報を収集した。

 

 この情報は、震災後、新設された復興事業局生活再建支援部(15年度に解散、保健福祉局に移管)の職員や保健師がパソコン入力し「被災者支援事業統合データ」を構築。データは市・区役所、社会福祉協議会や民間団体で共有し、見守り活動、健康や住宅再建の支援などに活用された。

 

 さらに、これら官民が協働し、支援方針を確認し合う「生活再建支援ワーキンググループ」が同月に発足し「仙台モデル」【図上参照】の体制ができあがった。そこで「住まいの再建方針」「再建上の課題」などを整理・分析し、支援策を体系化した「被災者生活再建推進プログラム」が14年3月に策定された。

 

■課題に即した支援を提供

 

 「仙台モデル」では「被災者生活再建推進プログラム」の実践に当たり、14年3月には仮設住宅の入居者8610世帯を支援の必要性に応じて①生活再建可能世帯(66・0%)②日常生活支援世帯(6・3%)③住まいの再建支援世帯(24・8%)④日常生活・住まいの再建支援世帯(2・9%)に4分類化【図下「支援の4分類」参照】し、効果的で実効性のある支援に乗り出した。

 

 ①を含む全世帯に状況把握や情報提供、復興公営住宅(災害公営住宅)などへの入居支援を行う一方、②には、区役所からの健康支援や社会福祉協議会などによる見守り支援を行った。

 

 ③には勤務先の被災や失業など就労で困っている人が多い。そこで一般社団法人パーソナルサポートセンターで運営する就労支援相談センターが履歴書の書き方や面接の受け方などをアドバイスした。

 

 ④に対しては「生活再建支援ワーキンググループ」で支援方針などを決め個別支援計画(支援カルテ)を作成。支援カルテをもとに健康支援や弁護士、司法書士など専門家による個別相談を実施した。

 

 個別の課題解決を通し、同市では震災から5年後の16年にはプレハブ仮設の全入居者が自宅再建や復興公営住宅などへ移転。みなし仮設の入居者も生活再建を進め、翌17年には全物件が返還された。

 

■孤立防止へ地域活動支える

 

 「被災者生活再建推進プログラム」は復興公営住宅での支援を見据えて、15年3月に「同加速プログラム」へと改訂された。これに基づき、復興公営住宅の全入居者を生活再建支援員が個別訪問し、生活状況を把握。町内会設立や住民交流会の開催などコミュニティー形成を支援した。

 

 同プログラムを発展する形で16年から仙台市は、同市社会福祉協議会との連携で「つなぐ・つながるプロジェクト」を立ち上げた。これは、仮設住宅における被災者支援のノウハウを生かし、復興公営住宅の町内会と民間支援団体、各区に配置されたコミュニティーソーシャルワーカー(CSW)が協働【「つなぐ・つながるプロジェクト」のスキーム図参照】。孤立・孤独の防止へ、住民による主体的なコミュニティー活動を通し、人材育成や地域を活性化する仕組みをつくった。

 

 年々、復興公営住宅に住む人の高齢化が進み、活動の維持が困難になっている町内会も少なくない。その悩みに応えるため、各区ごとに町内会役員らの情報交換会を開催。さらに支援団体の一覧を掲載した「つなカタログ」を作成し、町内会と支援者のマッチングや地域活動の担い手育成講座を開いた。CSWと地域包括支援センターの連携による地域づくりやボランティアのコーディネートも実施。

 

 市社会福祉協議会地域福祉課の大久保環係長は「被災者の個別支援は住民の孤立や孤独を防ぐ活動と共通点が多い」と指摘。市生活再建推進部長を務めた佐藤俊宏・市社会福祉協議会事務局長は「多機関連携で住民同士の関係性を深め、地域力を高める。今後も平時から協働の経験を積み上げたい」と語っている。

 

■公明の推進で取り組み加速

 

 市、社会福祉協議会、NPOなど民間団体の協働による「仙台モデル」の実施が本格化した13年、公明党の仙台市議団、宮城県議団と国会議員は、その活動の一翼を担う一般社団法人パーソナルサポートセンターを視察し、意見交換した。17年には同法人の立岡学常務理事が「仙台モデル」を紹介しながら「災害ケースマネジメント」の制度化を党生活支援プロジェクトチームの山本香苗座長(参院議員)に要望。これを受け、山本参院議員は18年の参院予算委員会で災害ケースマネジメントを全国展開するよう質問した。立岡氏は「国による取り組みが加速したのは公明党の地方と国のネットワークの力が大きい」と評価している。

支援者が仮設入居者を個別訪問する見守り活動などを通し、被災者の生活再建をサポートした=2012年9月 仙台市