2024年度、政府予算案のポイント
2023/12/23 3面
 政府が22日に閣議決定した、一般会計総額112兆717億円の2024年度予算案のポイントを紹介する。


■(賃上げ)医療や福祉の賃金増促す

 24年度予算案には、社会全体の賃上げを後押しする政策が並んだ。「物価に負けない賃上げ」の実現、デフレからの完全脱却をめざす。

 予算編成の焦点だった診療・介護・障害福祉サービスの報酬改定では、医療・福祉現場で働く人の賃上げを促すため、24年度にベースアップ(ベア)2・5%、25年度にベア2・0%の処遇改善につながる措置を盛り込んだ。処遇改善で加算する仕組みも拡充し、構造的な賃上げを促す。

■小中教職員、初任給引き上げ

 公立小中学校の教職員給与の改善に向けては義務教育費国庫負担金を大幅に増額し、初任給を5・9%上げる。保育士も国家公務員給与の引き上げを盛り込んだ23年人事院勧告を踏まえた処遇改善を行う。

 このほか、公共工事の労務単価を作業員らの賃金上昇を反映して改定するほか、中小企業が賃上げできるよう、価格転嫁が適切に行われているかを監督する「下請けGメン」の人員を増強する。

■(社会保障)診療報酬「本体」はプラス

 医療や介護、年金に充てる社会保障関係費は37兆7193億円に上り、過去最高を更新した。

 診療報酬改定は、医療従事者の処遇改善が焦点だった。人件費に当たる「本体」部分はプラス0・88%で決着。薬の公定価格である「薬価」はマイナス1・00%で、全体でもマイナス改定となった。国費抑制効果は400億円程度。

 24年度制度改正に向けて議論してきた介護分野では、原則1割の支払いを求めているサービス利用料を巡り、所得に応じて2割を負担する人の対象を拡大する案の見送りが決まった。

 「女性の健康」に関する司令塔機能を担うナショナルセンター機能の構築も新規で盛り込まれた。

■(子ども・子育て)児童手当、高3まで支給

 子ども・子育て関連では、児童手当や児童扶養手当の拡充、保育士の処遇改善などを盛り込んだ。児童手当は前年度比3047億円増の1兆5246億円を計上した。24年10月分から、所得制限の撤廃や高校生までの支給対象拡大、第3子以降への加算増額を行う【上の表参照】。

 ひとり親世帯向けの児童扶養手当は所得制限を引き上げ、より多くの世帯が受給できるようにする。第3子以降への加算も増やす。

■保育士の配置基準など見直し

 保育の質向上のため、保育士の配置基準を76年ぶりに変更。4、5歳児をみる保育士を「30人に1人」から「25人に1人」に改善するなどして、人件費を669億円積み増す。放課後児童クラブ(学童保育)職員の人件費も228億円増やす。

 妊娠から出産、育児まで切れ目なく相談に応じる伴走型相談支援と、妊娠・出産時に計10万円相当を支給する経済的支援【下の図参照】をセットで行う「出産・子育て応援交付金事業」を前年度に続いて盛り込んだ。

 子どもと接する職に就く人に性犯罪歴がないことを確認する「日本版DBS」創設に向けた調査研究費や、日常的に家族の世話や介護を担う子ども「ヤングケアラー」への支援費も計上した。

■大学など無償化を拡充

 大学や専門学校など「高等教育の無償化」を拡充し、給付型奨学金と授業料減免の対象を多子世帯や理工農系の学生の中間所得層(世帯年収約600万円)まで広げる。多子世帯は、年収約270万円未満の世帯への支援額(私立大生で年間最大約160万円)の4分の1、私立の理工農系は、文系と授業料の差額を支援する【図参照】。

■(教育)「教科担任」計画前倒し

 教員の長時間労働対策を進めるため、小学校高学年を対象とした「教科担任制」の配置計画を1年前倒しする。当初は、22年度から25年度までの4年間で950人ずつ増やす予定だったが、24年度に1900人増員し、計画を完了させる。

 このほか、教員が授業などの本来業務に集中できるよう、事務作業を支援する「教員業務支援員」の配置も拡大。前年度の1万2950人から2万8100人へ増員し、全小中学校に配置する。

 管理職の負担軽減策では、副校長や教頭を補佐する「副校長・教頭マネジメント支援員」制度を創設。実施する自治体に対して、国が経費の3分の1を負担する。

■(脱炭素)再エネ、水素導入を加速

 脱炭素化と経済成長の両立を図る「グリーントランスフォーメーション(GX)」とエネルギーの安定供給に1兆円超を充てる。太陽光などの再生可能エネルギー(再エネ)や、燃焼時に二酸化炭素(CO2)が出ない水素の導入を加速する。

 再エネは、軽くて折り曲げられる「ペロブスカイト太陽電池」や、設備を海に浮かべる浮体式洋上風力発電といった新技術の実用化を後押しする。548億円を計上し部材調達から支援する。天候による発電量の変動を軽減するため、蓄電池の整備も急ぐ。

 水素は、石油など従来の化石燃料に比べてコストが高いため、その価格差に対する補助金支給に89億円を措置。支援は次年度以降も長期で続ける。供給拠点整備には15億円を確保する。

■蓄電池の供給強化

 電気自動車などに使われる蓄電池の製造基盤整備には、2300億円を計上した。関係企業への支援を進め、経済安全保障上の重要物資に位置付けられる蓄電池のサプライチェーン(供給網)強化につなげる。

■(物流)「置き配」促進へポイント実証

 深刻なトラック運転手不足が懸念される「2024年問題」に対応するため、運転手の負担軽減や物流の効率化に向けた事業費が盛り込まれた。再配達の防止に向け、玄関先に荷物を置く「置き配」を選択した消費者にポイントを付与する実証事業を行うほか、輸送手段をトラックから鉄道や船舶に転換する「モーダルシフト」を推進する。

 24年4月から運転手の時間外労働の規制が強化されるため、対策を講じなければ30年度には34%の輸送力が不足すると政府は試算。23年度補正予算と合わせ、392億円を計上した。

 荷主企業とトラック事業者の間で適正な取引が行われているか監視する「トラックGメン」の活動経費も計上した。

■(防災、復興)土地利用規制と組み合わせて治水対策

 公共事業関係費は、前年度比26億円増の6兆828億円。

 土地利用の規制と組み合わせた治水、津波対策を講じるほか、危険性の高いエリアでの住宅新築支援額を引き下げるなどし、頻発、激甚化する自然災害への対策をハード・ソフト両面で強化する。

 復興庁の24年度予算案は前年度比14・8%減の4707億円。東京電力福島第1原発事故を受けた帰還困難区域のうち、「特定帰還居住区域」での除染費用に450億円を計上した。