土曜特集
日本の気候に異変
四季から“二季”になるか/三重大学大学院 立花義裕教授に聞く

2023/12/02 4面
 日本の気候に異変が起きている。11月の上旬は、列島各地で夏日になるなど記録的な暑さが観測された一方、中旬以降は真冬のような寒さに一転する日もあった。秋はどこに行ってしまったのか。異常気象を研究し、四季が“二季”になる可能性があると警鐘を鳴らす三重大学大学院生物資源学研究科の立花義裕教授に聞いた。


■(暑さの要因)海水温の高さが影響/偏西風弱まり「黒潮」北上

 ――季節外れの暑さが11月に観測された要因は。

 立花義裕・三重大学大学院教授 日本周辺の海水温が異常に高い状態が続いているためだ。各地で夏日が観測された11月5日の日本近海の海水温を見ると、平年より5~6度も高い海域があった【上図参照】。

 日本近海の水温上昇は、世界でも際立っており、海で暖められた空気が日本列島に流入し、11月でも暑くなった。海水温の上昇は、日本の太平洋側を流れる黒潮のスピードが落ちている影響が大きい。黒潮は赤道付近から流れてくる暖流で、スピードが速ければ房総半島沖を東に流れていくが、近年は東北や北海道付近まで北上している。つまり、日本を囲む海と空気が暖かいために、記録的な暑さになっている。

 ――黒潮のスピードが落ちている理由は。

 立花 地球上の海流の多くは、地球を取り巻く風の摩擦によってもたらされている。日本付近の上空では西から東に偏西風が吹き、それが近年、弱まっているのが一因だ。

 これには北極の温暖化の影響がある。偏西風は、北極と赤道の気温差が大きいと強くなり、小さいと弱まる。北極の温暖化が進んで気温差が小さくなっているため、偏西風が弱まっている。

 とはいえ、偏西風がある日、強く吹いたら、黒潮の流れがすぐ速くなるわけではない。元の状態を維持し続けようとする慣性が働くためだ。強く吹くことが数年続けば、黒潮の流れも速くなるだろう。

 一方、急に寒くなったのは、11月が季節的には秋でも、気象的な大気の状態は冬型だからだ。日本の北東にはシベリアの寒気が控えており、北風や北西風が吹くと、それが南下し気温が下がるわけだ。

■(将来の予測)猛暑や豪雨、常態に/長くなる夏、春と秋は短く

 ――気候の異変は今後も続くのか。

 立花 既に日本では、豪雨や猛暑が頻発するようになった。異常気象が普通になっており「ニューノーマル(新しい常態)化」していると言える。

 日本近海の海水温は高い状態が続いており、発生する水蒸気量が多くなっている。このため、昔と今で似た低気圧が日本列島を通過しても、今の方が雨量が多く豪雨を誘発しやすい。

 夏の暑さを見ても2010年以降、冷夏が全く起きていない。私たちの研究チームの解析の結果、日本付近では、南北に傾斜した構造を持つ新型の高気圧(南北傾斜高気圧=右図参照)が強まり、北日本でも猛暑の頻発が毎年のように起きることが明らかになっている。

 ――夏が長くなっている印象だ。

 立花 温暖化がこのまま進めば、日本の四季は長い夏と、冬から成る“二季”のようになるだろう。もちろん完全な“二季”ではなく、春と秋が短くなって、すぐ終わるイメージだ。

 近年はロシアなどユーラシア大陸の雪解けが早まっており、地面の温度が早い時期から上昇する。

 その分、春は早く訪れるが、暖まった空気が偏西風に乗って日本にどんどん運ばれるので、気温が上がるのも早く、すぐに夏になる。桜の開花が早まって、卒業式の頃には散っている未来もあり得る。

 夏は猛暑が頻発し、海水温が上昇するため、9月、10月になっても海から暖かい風が吹いて、厳しい残暑が尾を引く。秋の入りが遅くなる一方、冬は寒気の影響で、ちゃんと到来するので、秋が短くなる。

 ――暖冬になるのか。

 立花 温暖化で平均気温が上がって暖冬になる可能性はあるが、寒波が流入すると厳しい寒さになる。

 偏西風は暖気と寒気の境目に吹いており、冬の時期は日本付近で南側に大きく蛇行し、北の寒気が列島上空に南下しやすい。冬の海水温もこれまでに比べ高いため、水蒸気量が多く、東日本、西日本を問わず大雪の可能性が高まり、注意が必要だ。降雪すれば体感的に寒く感じるだろう。

■(必要な対応)温暖化を防ぐ行動重要/建物の断熱など、暑さへの適応も

 ――気候の異変に、どう対応すればいいのか。

 立花 温暖化で平均気温が上昇傾向にあり、猛暑などの暑さに適応していくことが求められる。

 日本の猛暑はもはや災害と言え、近年は毎年1000人を超える死者が出ている。家や工場などの建物では、遮熱カーテンや断熱性能の高い窓を取り入れたりして、室内の気温上昇を抑えるのも一手だ。

 農業への影響も避けられず、温暖化に合わせて育てる農作物を変える必要も出てくるかもしれない。

 ――かつての気候に戻すことはできないのか。

 立花 地球規模で気候変動が深刻化しており、気候危機と呼ばれるようになった。私たちは元に戻せるかどうかの瀬戸際にいる。

 温暖化の進行は、ある状態を超えると取り返しのつかない領域に入ると考えられており、その指標の一つが世界の平均気温の上昇幅を産業革命前に比べ1・5度以下に抑えることだ。

 国連のグテレス事務総長は今年7月に「地球沸騰化の時代が来た」と警告しており、温暖化を防ぐ行動が大切だ。

 ――二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを減らす取り組みか。

 立花 そうだ。大勢の人が取り組めば、ちょっとした行動でも削減効果は大きい。例えば、車の代わりに自転車で移動したり、省エネルギーの家電に買い換えたりするような行動が求められる。

 20年は新型コロナウイルスの流行で世界的にCO2排出量が減り、人類の行動で削減できることが実証できた。社会・経済活動が活発化する中、世界では欧州を中心に環境に配慮した回復をめざす「グリーン・リカバリー」が広がっている。日本でも普段の生活で地道に削減行動を積み重ねていくことが必要だ。


 たちばな・よしひろ 1961年生まれ。北海道大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。北海道大学低温科学研究所、ワシントン大学、海洋研究開発機構勤務などを経て2008年より現職。専門は気象学と気候力学。