議員サポート 政策提案のヒント
社会的弱者への住居支援
追手門学院大学准教授 葛西リサ氏に聞く

2023/12/02 6面
 シングルマザーら多くの困難を抱える社会的弱者にとって、住居に窮するケースは少なくありません。一方、全国的に増加する空き家などを活用し、さまざまな支援を行う自治体や民間団体も増えています。そこで、求められる住居支援策について、ニーズをはじめ、地方議員が取り組む上でのポイントなどを、追手門学院大学の葛西リサ准教授に聞きました。


■シングルマザーら、切実なニーズ

 ――社会的弱者を巡る住居支援のニーズについて教えてください。

 葛西リサ准教授 支援の必要性を痛感しています。特に、私が研究に力を入れているシングルマザーの問題に注目すると、離婚者が全体の約8割を占めているといわれています。婚姻の解消はスムーズに進むケースばかりでなく、別居中から離婚に移行することも少なくありません。結婚しているけど別居しているという“グレーゾーン期”の住居ニーズが極めて高いにもかかわらず、それを支える政策が乏しいのが現実です。

 また、高齢者の持ち家率が高い一方で、現役世代の持ち家率はどんどん下がり、賃貸への依存度が高まっている現状があります。中には就労が不安定で、生涯未婚という若者も増えています。今後、そういう人たちが高齢期に突入していくと、公営住宅では賄い切れなくなるのは明白です。空き家を使ったり、民間の賃貸住宅などを活用したりする住居支援が求められています。

■(空き家)セーフティネット制度の予算化を

 ――空き家の利活用がポイントの一つになりますね。

 葛西 総務省の報告によれば、2018年時点で、全国の空き家率は13・6%と戦後最高を更新しました。しかも、行政が把握している空き家以外にも、「親の資産でそのままにしている」などの理由から、市場に出回らない物件も数多くあると思われます。こうした良質な空き家を、今後どのように生かしていくかが課題です。

 ――どういった方策が考えられますか。

 葛西 国は17年、高齢者や障がい者、子育て世帯など「住宅確保要配慮者」らと空き家をつなぐ、新たな「住宅セーフティネット制度」を構築しました。

 国は登録した家主に対して、住宅改修費や家賃を下げるための経済的支援を行っていますが、これらは自治体が予算化しなければ利用することはできません。社会的弱者を含め、住居を本当に必要としている人のためにも、自治体で予算化するべきです。

 ――地方議員が取り組む上でのアドバイスを。

 葛西 まずは、空き家を巡る地域の現状や課題、ニーズを詳細に調査することが重要です。住宅のみならず子育て支援や孤立対策などの政策目的からも、空き家対策に使える国の支援策は充実しています。多くの省庁が用意していますので、わが街で活用できそうな支援策を研究し、議会質問や予算要望などに生かしてみてはどうでしょうか。

 また、地域には空き家を抱えて困っている大家さんや、住居確保を支援する団体の方などがいるはずです。そうした人たちと行政をつなぐ役割は、地方議員にしかできないと思います。

 ――先進事例を紹介してください。

 葛西 例えば、東京都豊島区では、行政自らが空き家を把握し、シングルマザーらの入居を後押しする取り組みを展開。福岡県太宰府市では、NPO団体など関係機関と連携して、大学の運動部の寮だった建物を改装し、子どもの居場所となる施設「ぎんももひろば」をオープンしています。

■(公営住宅)単身者向け、入居基準の緩和も

 ――公営住宅の利活用については。

 葛西 公営住宅でも空き家がどんどん増えています。希望の条件に合った地域で生活したいというニーズは多く、公営住宅がそれにマッチすることもあります。しかし、なかなか希望通りにいかない場合も多々ありますので、住みたいエリアに極力住めるような住居支援が重要です。公営住宅についても、地方議員の皆さんには、「地元自治体でどんな人が困っているか」を調査してもらえたらと思います。

 ――他にも、公営住宅に関して目を向けるべき課題はありますか。

 葛西 少し前まで、公営住宅の入居基準は、60歳以上の高齢者や障がい者、生活保護受給者などを除いて原則、単身者は対象外でしたが、11年に入居資格が見直され、同居親族要件は廃止されました。

 しかし、その規定を変えていない自治体が多く残っています。単身者が増えている実態を踏まえ、入居基準の緩和をぜひ進めてほしいと思います。

 ――最後に公明党に期待することは。

 葛西 関係者の間でも、公明党は生活弱者のために一生懸命、汗をかいてくれているという話が出ます。当事者に寄り添ってくれるのが、公明党の議員だと思っていますので、これからも期待しています。


 くずにし・りさ 神戸大学大学院博士課程修了。学術博士。専門は住宅政策、居住福祉。主な著書に『母子世帯の居住貧困』(日本経済評論社)など。