文化
日本の野鳥事情-三宅島のアカコッコを例に
耕作放棄と外来種が悪影響/日本野鳥の会自然保護室長 田尻浩伸

2023/07/28 5面


 地球上には約1万種の鳥類が生息しており、大きさも色や形も多様で、市街地から高山帯、湖沼に海洋、そして極域など、地球上で鳥類が生息していない場所はないくらいに様々な環境に進出しています。日本国内では650種ほどが記録されていて、その中にはスズメやツバメのように身近な環境で今のところ普通に見られる種がいる一方で、シマフクロウやヤンバルクイナのように絶滅が心配されている種もいます。これからも多様な野鳥が生息し続けるにはどんな課題があるのでしょうか。

 生物多様性という言葉を聞かれたことがあると思いますが、いまも多くの種や地域個体群の絶滅が心配されたり、実際に絶滅したりしていて、生物多様性は劣化が進んでいます。その原因は大きく四つ指摘されており、開発や乱獲(第1の危機)、人による働きかけの低下(第2の危機)、外来生物や化学物質(第3の危機)、気候変動など地球環境の変化(第4の危機)となっています。

 この原稿は、伊豆諸島のひとつで野鳥が多く生息していることからバードアイランドとも呼ばれる三宅島で書いているのですが、三宅村の鳥に指定されているアカコッコを例にして考えてみたいと思います。

 アカコッコは伊豆諸島とトカラ列島にだけ生息する日本に固有のツグミの仲間で、オレンジ色のお腹と黒い頭、目の周りと嘴の黄色が特徴です。環境省のレッドリストでは絶滅危惧IB類となっており、減少した原因として2000年の噴火による森林の減少に加え、外来性の捕食者の影響(第3の危機)と耕作放棄地の増加(第2の危機)が大きいと考えられています。

 ネズミ類による農業被害対策として1970年代、80年代の2回、イタチが島内に放されたのですが、イタチはネズミの他にアカコッコなどの鳥類も補食します。2009年以降継続して島民の皆さんと行っているアカコッコの個体数調査の結果、イタチ放獣前と比べて生息密度が4分の1ほどまで減少していました。人の暮らしも野鳥のどちらも大切なものであり、農業被害対策と野鳥への影響の排除をどう両立させていくかを考える必要があります。

 耕作放棄地は2000年の噴火以降に増加傾向にあるようです。アカコッコは開けた地面で昆虫やミミズ類などを探しており、アシタバ(明日葉)畑のように地表が露出した環境を好みます。ところが、最近では耕作されなくなり、地面がツル植物に覆われたアシタバ畑も見られるようになりました。私たちは三宅島で島内外の方と一緒に環境管理する活動を試みていますが、より多くの方に取り組んでもらえる仕組みを考えているところです。

 生物多様性の危機が迫っているのは、豊かな自然環境が残された場所に限りません。私たちに身近なスズメやツバメでさえ、数が減っていることが指摘されています。地球規模生物多様性概況第5版によると、生物多様性の劣化を止め、回復させていくにはいわゆる自然保護に加え、気候変動、外来種や化学物質汚染等への対応、持続可能な生産や消費の削減のような行動変容、社会変容が必要とされています。これを実現するには、国民はもちろん、社会の舵取りを行う行政関係者や政策決定者の積極的関与が必要不可欠です。ぜひ、一緒に取り組み、私たち人類がこれからも存続していけるように生物多様性の回復を達成しましょう。(たじり・ひろのぶ)