経済 循環型社会
世界的潮流、サーキュラーエコノミー(循環経済)への転換
東海大学副学長(同政治経済学部教授) 細田衛士氏に聞く

2023/07/24 6面

 


■「ストーリー性」が不可欠/付加価値の最大化を図れ

 ――循環経済を促進するために何が必要でしょうか。

 有効需要の創出が欠かせない。サーキュラーエコノミーが実現すれば雇用創出やGDP(国内総生産)上昇に寄与するとの見方があるが、消費者やユーザーからの環境面にも配慮したグリーンな需要が伴わなければ持続的経済成長を見込めないからだ。

 そのためにも、いかに資源循環による付加価値を最大化できるかが課題となるだろう。今、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から低環境負荷製品・サービスへの意識が高まっている。このチャンスを逃してはならない。環境面にだけ配慮した仕組みとするのではなく、経済活動と環境・資源の双方がウィンウィンとなるシステムを構築していくことが重要だ。

 ――どのような付加価値が求められているのでしょうか。

 物質的に豊かになった現代のライフスタイルは著しく変化しており、消費者・ユーザーはストーリー性を重視した商品・サービスを選ぶようになってきている。特に若者の“モノ離れ”は明らかな傾向で、大学の授業中に学生に欲しいものは何かと聞いてみても「別にありません」という答えがほとんど。一方で、インスタグラムをはじめとするSNS(交流サイト)による情報に敏感なのが特徴だ。例えば、単にきらびやかな洋服が選ばれるのではなく、その商品がどれぐらい環境に配慮して作られているかがSNSに拡散されるなどして、新たな付加価値を生み出している。

 こうした消費者・ユーザーの意識変化を踏まえ、サーキュラーエコノミーを単なるリデュース・リユース・リサイクルの強化で終わらせず、資源・環境の制約を乗り越えた先にある新しい経済としてストーリー性を持たせていくべきだ。

 ――資源循環の具体的な事例は。

 ペットボトルの場合、アルミ缶などと同様に、回収前と後で用途を同じくする水平リサイクルが注目されている。これまで使用済みのペットボトルは、食品トレーへの再生や海外で衣類に加工されるカスケードリサイクル(品質の下がったリサイクル)が多かったが、新たな原料が不要となる「ボトルtoボトル」の新技術が開発されている【イラスト参照】。

 三重県と津市がペットボトル製造工場と協働したモデル事業を実施するなど、各地で行政と企業が連携しながら資源循環に向けた住民の意識変容を促す取り組みも進められている。

■デジタル・ICT活用/環境と成長の好循環に

 ――より効果的な資源循環の仕組みを構築するには。

 あらゆる分野でデジタル化やICT(情報通信技術)による効率化が進んでいるが、資源循環にも欠かせない。例えば、鉱山から採掘されるレアメタル(希少金属)の代わりに、「都市鉱山」と呼ばれる使用済みの電子機器から金属を回収して再資源化する流れがある。これを効率的に実行していくためにもICT活用は不可欠だ。

 ほかにも、これまで廃棄物から回収しきれていなかった資源を取り出すための技術やシステムの開発も積極的に促していくべきだ。

 ――今後の課題は。

 サーキュラーエコノミーの推進を「環境と成長の好循環」につながる新たなビジネスチャンスと捉え、企業は経営戦略・事業戦略として、ビジネスモデルの大転換を図ることが重要だ。そのためにも、国は旗振り役として投資や資金繰り支援など企業を後押ししてもらいたい。多くの業界が連携しながら社会全体で資源を循環させていく流れは公益のみにとどまらず、持続可能な経済成長につながっていく。


 ほそだ・えいじ 慶応義塾大学経済学部教授を経て、2019年に中部大学で経営情報学部教授、21年には副学長に。22年4月から現職。環境経済学の専門家として、国の中央環境審議会などの委員を歴任。産業構造審議会プラスチック資源循環戦略ワーキンググループでは座長を務めた。