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 草原の大地を車が走る。
 マサイ族の村を後にして、現代文明が築き上げたリゾートへと向かっている。
鶴「どうも、ピーター」
ピ「握手しましょ」
大「『ビッグ5』見てない。『ヒョウ』見てない。私たちの旅の完結は?」
(以下、「鶴」片岡鶴太郎。「大」大林素子。「ピ」ガイドのピーター)
ピ「でも、細川たかしさんが唄う歌『心のこり』。そして、また、ケニアに、ヒョウに会いにくると」
鶴「私バカよね~おバカさんよね~♪」
ピ「うしろ指♪うしろ指…」
(つまりかけたピーターを鶴さんが助ける)
鶴「さあされえても~♪」
ピ「あなた一人に~命を懸けて~耐えてきたのよ~今日まで~♪」
(雰囲気でてきた。コブシがきいてメッチャ上手い)
ピ「パンパラパッパッパッパッ♪」
三人「秋風が吹く~港の町を~船が出て行くように~♪」
ピ「私も~『サファリ』に来るわ~明日の朝~早く~♪」
大「よく知ってる!上手!」
三人「イエー!」
ピ「インパラだ!」
 サファリカーの目の前をインパラが、大きく、高く、跳ねた。
鶴「インパラ見ながら『心のこり』とはね~」

 翌朝。
 ロケ最終日。
 朝焼けのサバンナに、やっと気球が飛んだ。

「うわーすごーい。ゆっくりなんだね~」
「すっごい大地だね。ここから人類が生まれたんだよね」
「人類ね~。発祥の地?」
「発祥の地ですよ」
「ね~、不思議ですね~。鶴さん、今、何考えてますか?」
「あのさ。よく人間はさ。自然を大事にしようとかさ。地球を大事にしようとかさ。よく最近言われるけどもさ。なんか俺、そうじゃないような気がしてね。なんか、この自然は人間とは別のところで、勝手に自然がこうあってね。そのあとに人間が生まれてきたわけでね。やっぱりさ、この自然の中で人間が…」
「ゴーーーッ!」
(熱気球が飛ぶために、熱した軽い空気を入れるバーナーの音。かなりデカイのだ)
「今よかったのに~」
 素ちゃんが笑っている。
「人間がさ、自然の中に、やっぱ、住まわしてもらっているっていうかさ」
「ゴーーーッ!」
(ホンマにタイミングのいい、イヤ悪い、熱気球のバーナーの音)
「もうどうでも良くなっちゃった」(笑い)
「これが人間なんですよ」
「ねっ」
「はい」
「ねっ、人間だね」
「ゴーーーッ!」
「人間のやってることってのは、凄いね」(終わり)

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「あの~。ジョンと逢えたお返しに、ジョンに逢えた私からの心からのプレゼント。ジョンの顔を描きます」
 草原の大地に画材や絵の具が広げられた。
 鶴太郎が「マサイの戦士」を描く。
 村人達が集まってきた。
アフリカで鶴太郎が「描きたい」という思いにかられたのは、自然でもなく、野生動物でもなく、「マサイの戦士」だった。
 鶴太郎の鋭い目が「マサイの戦士」とキャンバスを交互に見つめる。何かに憑つかれたかのように筆が動き、真っ白なキャンバスに見事な色彩が広がってゆく。
見渡す限り地平線しか見えない広大な大地のど真ん中で、ほんの一塊の人間に囲まれ、まるで儀式のようにすすんでいく。
 心の奥底から湧き出てくるもの、それを自らの表現として描く。
 鶴太郎が「マサイの戦士」になる。
 最後にTSURUTAROのサインが淡い黄色の文字で描かれた。
「マサイの戦士」を描いた鶴太郎の作品を、ジョンが自らの手にとって、何度も、何度も、何度も頷く。
「グッド、グッド、グッド」
「アリ、ガト」
 いつの間に覚えたのか?
「ツ、ル、タロ」

 別れの時が来た。
 微笑を浮かべ、みんなと握手をする鶴さん。
 マサイの人々の輪の中に大林素子がバレーボールを投げ込んだ。我々からのささやかなプレゼントだ。
「マサイの地を踏んだこの二十六センチの靴。ジョン、プレゼントね。みんなでプレーね」
 相変わらず、英語を喋る時に素ちゃんは、語尾に必ず「ね」を付ける。それにしても女性で二十六センチとは、さすがに足のサイズもジャンボである。
「オリンピック、ケニア代表。誰か、頑張って下さい」
 ジョンが、無造作に四つに折り畳んだ自分の肖像画を懐から出した。
「サンキュー!」
 画家、鶴太郎の作品。日本人の私としては、額縁にでも入れて床の間かなんかに大事に飾っておきたいところだが、それはあくまでも我々の価値観であって、マサイの人々にはあたりまえに通用しない。
「ジョン、ショーゾーガ」
 なぜか鶴さんの喋りもイントネーションだけ英語っぽい。
「元気で、また必ずジョンに逢いに来ます」
「マタ、ヨウコソ、イラッシャイマセ」
 ジョンも精一杯の日本語で答えてくれた。
「マサイ族の皆様を守ってあげてください」

 ゆっくりと車が動き出した。
 たった一泊二日だったとは思えないほど、濃密な時間を過ごしたマサイ族との生活。
 マサイ族の村。
 牛糞の家。
 ジョン。
 遠ざかっていく景色の中で、白球が弾んだ。
「あっ、もうバレーボール始めてる。練習してる。早い」
「白球がキレイだね」
「頑張ってねー!バイバーイ!」(つづく)

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 マサイの村に朝が来た。
 日の出と共に男達は「神の牛」の放牧に出かける。それまでに牛の乳を搾って、彼らに持たせるのが女たちの日課だ。
 マサイ族の一日が始まった。朝もやの大地の中を草を求めてひたすら歩く。男達が出かけた後、家を守るのは女たちの仕事だ。
「雨が降った翌朝はああやって修繕しないとダメなんですね」
 雨で壁の牛糞が流れ、木の骨組みをさらけ出している。流れてしまった壁に新しい牛糞を拾って塗りつけていく、家の補強をするのだ。道具をもたない左官屋さんのような見事な手つきで、壁に塗りつけた牛糞を均等に広げていく。材料はその辺で拾うだけだから簡単でイイ。

 マサイの放牧をとはどんなものなのか、ジョンが教えてくれると言う。
鶴「危険な動物達がいっぱいいるって?」
ジ「ライオン、チーター、ヒョウ、ゾウ」
大「ちょっと待って!いるんじゃないですか」
(以下、「鶴」片岡鶴太郎。「ジ」マサイ族の若者ジョン。「大」大林素子)
ジ「(一番強いのはライオンだよ)」
 サバンナを歩いていると、あちこちに骨だけになった無残な草食動物の屍骸が転がっている。
鶴「それは何するの? What Doing?」(ジョンが持っている棒を指して)
ジ「カウ」
鶴「なんだ?武器じゃねーのかよ?」
ジ「(ライオンとはこれで戦う)」(腰のナイフを指して)
大「イフ ライオン ヒヤー ドゥー、ネ」
ジ「スピアー!スピアー!」
 腰のナイフだけで、我々を守ってくれると言うことなのか?
鶴「ホワット ディス?」(サバンナに転がる頭蓋骨のようなものを指して)
ジ「カウ」
大「まだ新しいよ…」
鶴「死んだふり?(小笑)」
ジ「ドライ、ドライ」
 どうやらライオンの餌食になったのではなく、乾燥で食べるものがなくて死んだということらしい。これも自然の掟。動物達の屍骸はサバンナで生き抜くことの厳しさを物語っているのだ。
大「メニー、メニー、ネ」
素ちゃんの英語には必ず語尾に「ネ」がつく。
大「ライオンじゃなくて良かった」
ジ「(ライオン、ゾウ、キリンはむこうの茂みにいる)」
大「…」 

 牛達が草を食み、マサイの口笛に合わせて牛達が動く。
大「口笛であっち行けとか言ってるんですね」
鶴「うん」
大「彼が一番好きな時間って言ってましたよね…」
ジ「This is our land. Masai land. This is my father land. Papa land. (ここは俺達の土地だ。マサイの土地だ。ここはお父さんの土地だ) My aria. Masai aria. Our aria.(僕の場所だ。マサイの領域だ。我々の領域なんだ) Good aria. Green.(いい所だよ。緑のね)」
 「母なる大地」という表現は良く聞くのだが、ジョンにとっては、何故「父なる大地」なのだろう。「大地からの恵み」などということとはまた違った「マサイ族の力強さ」のようなものを感じる気がする。戦う民としての…。
ジ「Question?」
鶴「No question. Good.」
 青空の下で、草原の大地の上で、マサイの口笛が響きわたる。質問することはなにもなかった。ジョンにとってはここが「楽園」なのだ。(つづく)