ふさあさあ
大変ですよ我が家は
昨日から娘が退院してきて
小さな時計の
針が回り出したから

誰よりも小さいけど
誰よりもつよい
時間が
皆んなを支配しますからね



夜の9時を回って
「家内が先に寝ますよ〜」
って
階段を上がって行くと
娘の可愛い
イトちゃんは
私の膝の上でまだ
スヤスヤと寝ています

「おおっ!お口チュウチュウ
始めてんで!」
急かすつもりも無かったが
私の言葉に
「もう、そんなん言わんといてよ〜!」
娘の声はもう
パニクリかけてる

「なんでやねん?看護師さんに
ミルクの作り方
教えてもろてきてんのと
ちゃうの?」

私の言葉が
尚も、娘の心を苛立たせる
ばかりだった
と気づいて
手のひらをかえす

「大丈夫やで、お湯沸かして
ミルクといてから
哺乳瓶ごと水につけて
冷ましたったらええねん」

「どれくらいの温度にしたら
いいか分からへん!」
娘の声のトーンは
まだ
蒸汽がまじってる

「そんなん、手の甲にたらして
熱くなかった
それでエエねんから
大丈夫大丈夫!」

ここにきて
やっと
娘は落ち着きを取り戻した
ようだ

「たく、お母さんなんで
ミルクの作り方
教えてから上がらへんかってん!」

娘の救いなるかと
家内をそしってみせたが
(娘の頼りなさも
なかなかのもんだ)

「私が、自分のことばかりで
精一杯やったから••
ゴメンな『いと』」

娘が持ってきた
哺乳瓶をうけ取ると
イトちゃんの口に吸い口を
入れてから
私は何を思ったか
ミルクが垂れるように
哺乳瓶を逆だてた

それを見て、こんどは
娘の方が
慌てて
「お父さん、ヤバいヤバい」
と言いながら
私の膝の上から
愛娘を哺乳瓶ごと掬い上げると
自分の懐に抱き寄せ
小さな口が
上手にチュウチュウ出来る角度に
瓶の尻を支えて
まだ、赤黒い我が子の
顔を眺めている
そして
「我が子は、可愛いの〜」
満面に笑みを湛えて
言ったもんだ


私が黙ったまま
見ていると

どんなつもりか
「この子、お父さんに
そっくりなような気がする」
とのたまう

(こんなこと、娘にいわれて
嬉しいと思う父親は
いるのかね?)

私は、頃合いとみて、のっそりと
立ち上がると
「じゃあな!寝るわ」
とぶっきらぼうに
言って
背後に娘の声を聞きながら
家内の上がった階段を
静々と
登り始めた