帰り道には全く危険はありませんでした。ついさっき洞穴を見つけた人にまたすぐに他の事件がふりかかる筈はありません。
ムーミンはまだ真珠取りに励んでいて、波に浮かぶコルクのように動き回りながら浜辺の上にたくさんの白い石を並べていました。
「あ、ここにおったんか」ムーミンは言いました。「箱どこ」
「あがってきて!はやく!」スニフは叫びました。「俺見つけてん!たった一人で!お前が全く想像できないぐらい危ない目にあってな!」
「ええ箱なん?」手にいっぱいの真珠をもって砂浜を歩きながらムーミンがききました。
「箱どころじゃないわ」スニフが叫びました。「箱もお前もみんな奈落の底に落ちてまえばええねん!でもそんな時間ないで。なんせ俺洞穴見つけてんから!俺しかしらん洞穴!」
「ホントの洞穴?」とムーミンがたずねました。「穴があってそこから中に入れるやつ?岩の壁と砂の床の?」
「そうやで!全くその通り。」
スニフはちゃんと立っていられないほどわれを忘れて答えました。
「手伝ってくれるか、少なくとも3掴みの真珠をくれるんやったら、おまえの真珠を俺の洞穴に置かしてあげてもええけどな。」

真珠は洞穴の中に置くとますます白く美しく見えました。
ムーミンとスニフは砂の上に身体を伸ばすと天井の青い空を眺めました。
時折、潮の水しぶきが洞穴の入り口まで飛んできて、日差しの帯はみるみるうちに広がっていきました。
スニフは、子猫の話をしたくてうずうずしていましたが、何もしないことにしました。
まず、子猫と仲良くなって、それから何処へ行くにも一緒に行って、あるとき二人してベランダにいる時にムーミンがこういうのです。『ありえへん!何処にでもついて来る猫なんて!!!』

「お皿に牛乳入れて庭においとこ。今日から毎晩。。」
そしてスニフはため息をつきました。「おなか減った」
真の成功を前にすると人は食べるのを忘れるものです。

ムーミンハウスにスニフとムーミンが戻ってきた時、すでに午後遅くなっていました。
川は夜に向かってゆっくり流れ、上にかかった真新しい橋を色とりどりに照らすのでした。
ムーミンママはちょうど花壇の周りを貝殻で飾っているところでした。
「楽しかった?」ママが尋ねました。
「俺ら少なくともここかから100㌔は遠くへ行ったで!」
ムーミンは言いました。
「俺は海を見つけてん。そんで物すごく大きな波を潜ってめッちゃ綺麗なものを見つけた。し、で始まってゆで終るもの。でもこれは秘密やから教えられへん!」
「それでそれで、俺は、ほ、で始まって、な、で終るものを見つけたで!」とスニフは大声で言いました。「そんで真ん中はら、やけど~これ以上は教えられへんな!(どやぁ)」
「そりゃすごいなあ」
ムーミンママが言いました。「いちんちで色んな体験をしたんじゃねえ。スープが保温箱にはいっとるけん食べんさい。ほいでパパが仕事しとるけん、静かにするんよ。」
それからママは貝殻をまた並べだしました。青いのを一つ、白いのをふたつと赤いのを一つを交互に並べ、それはとても綺麗でした。

スニフはちょっとの間、箱を探しましたが海草と木の葉しか見つかりませんでした。浜はひと気がなく、高い岩壁まで長く続いていました。岩壁は波の泡で上の方まで濡れていました。
ここは楽しいことがなんもないな。とスニフは思いました。つまらんし誰も遊ぶ人がおらへんしもういやになってきたな。そう思ったのと同時に、小さなスニフは彼が歩いているすぐ側の岸壁の上に小さな子猫がいるのを見つけました。その子猫は白黒のまだら模様と細くてぴんと立った尻尾をしていました。スニフはものすごく嬉しくなりました。
「ネコちゃんネコちゃんこっちおいで。おれめっちゃ退屈してるねん。それに悲しいねん。」
子猫は黄色い目でスニフのほうををちらりと見ると、歩いていってしまいました。
スニフは子猫を追って崖をよじ登り始めました。濡れた険しい岩壁をよじ登りながら根気強く子猫のことを呼び続けました。ようやく頂上までたどり着いたとき、子猫は狭い岩肌に沿って岩壁を歩いていました。
「行かんといて!」スニフは叫びました。「俺はネコちゃんのこと大すきやで~!」
しかし子猫は立ち止まることなく、どんどん先へ歩いていきました。
岩壁の下の方では波の音が轟いていました。スニフは足の力が抜けて、心臓がドキドキしているのがわかりました。
スニフは四つんばいになって子猫のあとを追いかけました。ゆっくり進みながら思いました。「俺の小さくてふわふわでかわいいネコちゃん。俺よりちっちゃいネコちゃん。どうか小さい動物の神様、俺がネコちゃんをつかまえて、ムーミンに自慢できますように。」
スニフは今までで一番恐い思いをし、同時に一番勇気を出していました。すると突然、そこに洞穴が現れたのです。岩壁に穴がありその後ろがおおきな洞穴になっていました。
スニフは息をのみました。人生で一度見つけられるか見つけられないかぐらいの洞穴です。つるつるした壁は青空が見える天井まで続いており、そこから漏れる太陽で底の細かい砂が温かくなっていました。
スニフは中へ這って行き、太陽光の帯の上にうつぶせになりながらここに一生住みたいと思いました。「ここにちいさな棚を掛けて、砂に寝床を作って、夜はろうそくつけたらええなあ。それみたらムーミンはなんて言うやろなあ。」
しかしあの意地悪な子猫はどこかに消えてしまいました。

しかしムーミンは大きな波にもぐっていき、太陽の光がその波を照らしました。
はじめのうちは淡い青緑色以外見えませんでしたが、やがて砂の上に揺れる海草の茂みが見えました。
砂は美しく波打ち模様を描き、内側がピンクで周りが白色の貝殻があたりに散りばめられているのでした。
さらに進むと水が暗くなり、そこには底なしのような真っ黒なほら穴がありました。
ムーミンはくるりと回転すると一気に波にのって浜辺までもどってきました。スニフが大声で助けを呼んでいるのが見えました。
「もうお前おぼれ死んだんかとおもったわ!」「それか鮫に食べられたんかと思った!お前おらんかってから俺の身になんか起こったらどーするんよ!もー!」
「なにようるんなら。」ムーミンは言いました。「海のことはようしっとんじゃ。それより海潜っとるときぼれええこと思いついたわ。ぼっれえいい事じゃけど、秘密よ?。」
「え、どんな」スニフがききました。「奈落のそこに落ちてまうぐらい・・?」
ムーミンはうなずきました。
「約束が守られんかったら、」そしてスニフは口早に言いました。「奈落のそこに落ちて、ほいでハゲタカが俺のからからになった身体を食べ散らかしてアイスがもう食べれんようになってもええわ。 ほんで??」
「真珠をとって、とった真珠を宝箱に隠しとこうと思うんよ。白い石は全部真珠なんよ。真っ白でまん丸のやつ。」とムーミンが言いました。
「ほんなら俺も真珠とりになる!」スニフが大声で言いました。「砂浜限定の真珠とりな。砂浜は白くて丸い石でいっぱいあるけえなあ。」
「わかってないなあ。」と、ムーミン。「水の中にあるやつだけが真珠なんよ。ほいじゃあ、あとで。」
そう言って、再び波のほうに歩いていきました。
「え、ほんで俺はどうしたらええんな??」後ろからスニフが叫びました。
「真珠入れる箱探す係。」とムーミンも叫ぶと海に潜っていきました。
スニフは海岸をゆっくり歩きながらぶつぶつとつぶやきました。
「あいつおいしいとこばあ持って行きやがって。おれがちびじゃけえって馬鹿にしとんじゃ。」

はじめその道は上り坂でしたがやがて下りになり、さらにどんどん狭くなっていき最後には道は全くなくなり、ただ彼らの前にはコケとシダが生えているだけでした。
「道ゆうのは絶対どっかにつながっとるはずなんじゃけどなあ」ムーミンは言いました。
「おかしいなあ。でも簡単にあきらめる訳にはいけんけえなあ」そういって2,3歩苔の上に足を踏み入れました。
「ほんでももし家に帰れんようになったらどうするんなら」スニフが小声でいいました。
するとムーミンが、「ちょっと、静かに」「なに?このおと」
木々の後ろの遠いほうからかすかにざわざわという音が聞こえました。そしてムーミンはもう2,3歩前にでると鼻を上げてくんくんと匂いを嗅ぎました。風はしめっていて良い匂いがしました。
「海じゃあ!」ムーミンは大声で言うと走り出しました。ムーミンにとって海で泳ぐことは何より大好きなのです。
「ちょっとまってえや!ひとりにせんといてえやあ~~」スニフが叫びました。
しかしムーミンは海にたどり着くまで止まりませんでした。そしてうやうやしく砂の上に座り、じっと白い泡の跡を残して押しては返す波を見つめました。しばらくしてスニフが森から出てきました。
スニフはムーミンノ隣に座っていいました。「お前が走っていってしもおたけえ俺、一人でほれえ危ないところじゃったろうが!」
「だってうれしかったんじゃもん」「この谷には川と山があるじゃろ、ほんでも海もあるなんて知らんかったけえ。ほら、波見てみいや!」
「寒そうじゃな、いやな感じ。」とスニフは言いました。「あん中に入ったら濡れるし、上にのったらゲロはくでたぶん。」
「なにようるんな、潜るの楽しいじゃろうが??」ムーミンはびっくりした様子で尋ねました。「潜りながら目開けれんのん?」
「できるけど、したくないだけじゃ!」スニフが答えました。
ムーミンは立ち上がるとまっすぐ海の方へ歩き出しました。
「俺知らんけえな!」スニフが叫びました。「海ん中なんてどんな目にあうかわからんど!」
ムーミンとスニフは庭を通って草原を渡り、まだ二人が足を踏み入れたことの無かった暗い森へ続く丘を登っていったところでかごを置いて谷を見下ろしました。
ムーミンハウスは点のように小さく、川は細い緑の紐の様にみえました。ブランコはもはや全く見えもしません。
「おまえ今までで一番おかあさんから遠いぃとこに来たんじゃないん??」「いうとくけど、おれここにたった一人でおったんど。ほんじゃあ俺が見つけた新しい道、見せてやるわあ。」
そう言ってスニフはそこらを動きまわったり、においを嗅ぎまわったり、太陽の位置をかくにんしたりして散々もったいぶった後で叫びました。「ここ!ここが俺が見つけた道!え??あんま恐そうじゃないって?ほんならおまえ先に行けやあ。」
ムーミンは慎重にその深い緑の中に入っていきました。あたりは全く静かになりました。
「何処に危険があるかわからんけえのお。前も後ろも横もきいつけんといけんよ!」とスニフが小声で言います。
「そんな何処もかしこも同時に見るん無理じゃって。おまえ後ろみとけや。」
「いやじゃ。後ろなんか見るの。後ろから誰かきたらぼれ怖いじゃろうが。お前一人でみろや。」
「ほんじゃあ前行けや。」
「あ、ほいじゃったら、二人並んでいけんのん?」
そうして二人は狭い中ならんで深く深く森の中に入ってい行きました。森はますます暗く、深くなっていきました。