あれは
妻と結婚して10回目

そして
生まれて32回目の

2月9日


朝、目を覚ますと
普段は隣で寝ている妻がいない

代わりにキッチンから生活音が聞こえる


はて

妻は朝弱いのに…


あくびをしながらキッチンに顔を出すと
やはり妻が朝食の用意をしている


「おはよ」

私に気付いた妻が挨拶をする

『どうした?』

あまりの珍しさに
挨拶も忘れて質問してしまった


「ふふっ、誕生日くらい清々しい朝でもいいんじゃない?」

『おいおい、雪でも降らせるつもりか?』

「もう…、ほら、早く着替えてよ」

『あぁ…』


妙な感じだが
ひとまず私は顔を洗い着替えることにした



着替え終わり、改めて食卓に向かうと
妻は既に席に着いて外を眺めていた


『お待たせ』

「じゃぁ、いただきます」

『いただきます』



久しぶり

そう

相当久しぶりに
妻の作った朝食を食べた

結婚した当初は頑張っていたが
徐々に慣れてきたというか、だれてきたというか

いつの間にか
妻を起こすのは私の役目であり
朝食は冷凍食品であった


「何とか言わないの?」


回想に浸りながら食べていると
妻から感想を催促された


『あぁ、久しぶり過ぎて感動してたら、言葉が出なかった』

「ばか」


照れ笑いした妻の眼は
何か感情を宿していたが

その時の私には解らなかった



食事を終え朝刊に目を通していると

後片付けを終えた妻が席についた


『そろそろ出る時間じゃないのか?』

「うん……今日はバスで行くから、まだ大丈夫なの」

『そうか』


いつもは
将来メタボにならないためとか何とか言って
歩いて仕事に向かうのだが…

慣れない早起きをして疲れたのかな


『ありがとな』

「え?あ、うん…」


急に礼を言われて驚くにしては
妙な反応だ

そもそも
誕生日だからってプレゼントはくれるが
早起きして朝食を作るなんて本当に珍しい


『…何かあったのか?』

「………」

『どうした?』

新聞を畳み改めて妻を見て聞いてみる

妻の顔は大分思い詰めている

嫌な予感がする

男にもやはり勘が働く時があるが…


『…あのね……渡したいものがあるの』


そう言って妻は
一枚の紙きれを差し出した


よくテレビドラマで見る光景だ


名前も書いてある


後は私の署名だけ…か


『何が悪かった?』


自分の至らなさそうな点をあれこれ考えてみた

学生時代に付き合い始め
卒業と同時に結婚
将来の為に共働きして
そろそろ子どもが欲しいな
なんて話していたのだが…


「…あなたのせいじゃないの」

『なら何が…』

「何も聞かずに…別れて…ください…」


妻の眼から光る雫が落ちた


『…わかった』


普段それほど我を出すことも
人前で涙を見せることもない妻が

涙を零し想いをぶつけている


それだけで
私は理由の追求も忘れ
同意してしまっていた



名前を書き終えると
妻は離婚届を封筒に入れ立ち上がった


『もう行くのか』

「ごめんなさい…」


玄関には既に荷物が置いてあった

妻は靴を履くと
荷物を持って一礼した


『美里っ!』


ドアを開けかけた妻は手を止めた


『久しぶりに食べた美里の朝飯、本当に美味かったよ、ありがとう』


妻は…

美里は微笑みながら顔半分をこちらに向け


「ごめんね」

とだけ告げ出て行った



私は
しばし開くことのないドアを見つめた後


リビングのソファに座り
天井を眺めた

(32歳の誕生日プレゼントは、妻の手作り朝食と離婚届か…)

あまりの急展開に茫然とし
何もする気になれなかった

(仕事どころじゃないな…)

私は携帯を手にとり
会社に電話をしようとした時

一通のメールが来た


(美里…?)


【ずる休みしないでちゃんと会社に行くように】


お見通しか…


別れを告げられた妻からずる休みの心配をされるとは

まったく


そしてそれ以来
美里から連絡が来ることは無かった



後に聞いた話では

美里は最近職場で、昔憧れていた先輩に再会したらしく

共に働く内に想いが再燃し
向こうも同じ気持ちだったらしく

浮気するくらいならと
私との別れを決意したらしい



幸せに生きてくれてるならそれで満足

そう思えるには、まだ時間がかかりそうだが


あの時の朝食の味だけは
忘れることは出来ないだろう


       完



☆☆☆☆☆☆☆あとがき?☆☆☆☆☆☆☆

長々とお目汚しに時間を使わせてしまい
申し訳ない感じです

めちゃめちゃフィクションですw

そして
思い付くまま書いた妄想なので
情景とか感情とか伝わらないかとは思いますが

勘弁してやってください( ̄▽ ̄;)

ホントただの気まぐれで書いただけですw