ようやく鑑賞できた話題作。日本語吹き替え版での鑑賞となったが、ミュージカルナンバーも含めて全く違和感はない。

 姫君と邪悪な魔女に白馬の王子、で成立するディズニーの定番と言えば「白雪姫」「眠れる森の美女」である。それに、闇の世界が再び光に包まれるという「ライオンキング」のミュージカルエッセンスを加味して、ヒット間違いなしの愛すべき作品が生まれた。

 ただし、今の時代らしいひねりがある。まず、邪悪な魔女は出てこない。善悪の対立がここでは姉妹の葛藤に置き換わり、コントロールするすべを知らないために暴走してしまう超能力を身に付けてしまった姉の哀しみとして描かれる。

 白馬の王子は一応登場するが、実は・・・・という趣向になっている。最後の栄光は愛によってもたらされるが、それは男女の愛というよりは姉妹の間の家族愛である。という具合に、ディズニーの変奏が奏でられる。

 フルCGで描かれる氷や雪の質感と色彩の美しさには目を見張る。さらに楽しい楽曲も加わって至福の時を味わうことができる。

 イスラム教とキリスト教の争いを描いている。

 オスマン帝国トルコ軍の野望は、ヨーロッパに侵攻しキリスト教の中心地で、そのシンボルである教会をモスクにしてしまおうというものだ。目指すはローマの中心、サンピエトロ、というわけだが、とりあえずその攻防の舞台となるのはウィーンで、圧倒的なオスマンに対して一人の聖者とポーランドの援軍が挑む。

 今のトルコはオーストリアの首都ウィーンには遠く、当時のオスマン帝国がどの程度の領土を誇っていたかくらい知っていればさらに理解が深まるのだろうが、歴史音痴でも面白く見られた。調べたらウクライナ、ハンガリー、チェコスロバキアなどすべてオスマンだったらしいから、ウィーンは国境のすぐ向こうにあったことになる。

 映画のコピーに「1683年9月11日”ウィーン包囲”・・・・」とあり、そのウィーンは「黄金のリンゴ」と呼ばれていた。

 ビッグアップル=ニューヨークを襲った9.11テロとピッタリ符号しているではないか!!

 読んでから見るか、見てから読むかが問題であるが、結局、原作を2/3程読んだところで映画を鑑賞、残りをその後に読むこととなった。これが大正解であった。

 まず、原作の空中戦の描写がスピード感+スリル満載で大スクリーン上に展開され、読書中の頭の中の映像がリアルな視覚体験として出現することに興奮してしまった。

 次に、犯人探しの推理小説ではないが、生きることに執着した主人公がなぜ生存率ゼロの特攻を志願したかがミステリー仕立てになっており、あわせて巧妙に伏せられていたある真実が最後に明かされる構成なので、その部分に関してはやはり映画で先に体験したい。読んで、見て、さらに続きを読むことでここもパスできた。

 映画は現代を生きる孫が祖父を知る人々にインタヴゅーして、その内容が映像的に再現されるという構成になっている。文字では語り部の語る物語の背景までは表現できないが、映像ではその時周りに誰がいたかまでも映ってしまう。
 したがって、ある語りの中では脇役だった人が、次の語り部となり、異なった視点からひとつの物語が多面的に紡がれる面白さが映画では堪能できる。

 一方小説では、個々の戦闘の具体的な描写、大戦の中での位置づけ、日米の装備の比較、兵士に対する軍の扱いの差、戦局の中で兵士たちは何を考えていたかなど、克明に描いている。
 映画は限られた時間の中で、幾人かの語り部を統合させたりしながら、枝を剪定して樹形をより鮮明に整えるような脚色を施しており、その技もまた楽しむことができる。

 見るだけ、読むだけでも十分な満足感が保証されるが、両方を体験するとさらに高次の魅力が輝き出す作品である。ただし、これからという方は原作と映画の順番を十分に考慮したほうが良い。